When a Cancer Therapy Puts Others at Risk
放射性同位体を用いた治療が患者以外にリスクをもたらすって?

これもトレードオフの問題。
医療での放射性物質の利用は十分に制御され、一般の皆様へのリスクはきちんと制御されています。

New York Timesの記事

2010年10月24日付け(電子版)のNew York Timesに、I-131を用いた核医学治療の放射線安全が取り上げられています。
「放射性ヨウ素を内服した治療を受けた後に、事情があって家に帰れない場合、あなたはどうするか?」
というのが出だしです。
500マイルも離れたところで治療を受けることになったとありますが、わが国はどうでしょうか?

ドライブスルー治療だと言われているお話じゃな。
がん治療の均てん化が図られ、各地で治療が受けられる体制が整備されているが、I-131の治療のための病床は減っていて、地域を越えて診療を受ける必要があるかもしれない。
I-131内用療法の現況や課題は、原子力委員会で厚生労働省から示された「放射線利用に関する厚生労働省の取り組み」がわかりやすくて参考になるじゃろう。

増加している放射性ヨウ素の内用療法

放射性ヨードの治療件数は増加し、治療施設も増えているけれども、稼働中の放射線治療病床は何故か減っているんだね。
平成10年の通知発出で、放射性ヨードの治療件数が倍増しているのは何故かな?
New York Timesの記事にある1997年の米国原子力規制委員会(NRC)のように放射線安全の基準を緩和したのかな?

この通知は、放射性ヨウ素の投与を受けた患者さんの管理区域からの退出を示したものじゃ。
規制を緩和して利用を促進したというよりも、安全基準を明確化し、医療で重要な役割を担っている看護師らの理解を得たことのインパクトが大きかったのではないかと、古賀佑彦先生は分析されておった。
その後、放射線管理料として放射線治療病室加算500点/日と放射性同位元素内用療法管理料500点/月×4月間を請求できるようになったので、診療所でのバセドウ病への放射性ヨウ素の使用量は4倍位増加しておる。

退出基準の通知はI-131治療を抑制させず、基準を明確化して安心をもたらして、むしろ、この技術が普及したと言うことですね。

韓国でも同じようなプロセスで使用量が増えていて、人口あたりではわが国よりも利用が盛んじゃ。

しかし、放射線治療病床は減少している

それにも関わらず、治療病床が減っているのは何故ですか?
やっぱり放射線管理にコストがかかりすぎるのかなあ?

機能亢進症への使用は増大したが、病院での甲状腺がんの使用量は増加しておらん。
日本核医学会による実態を踏まえた調査では、必要な経費として、放射線治療病室管理加算17,267点/日と算出しておる。
医療現場の理解としては,放射線防護のための施設が必要なので、 入院料として6,000点は必要であるとされているようじゃ。

1点が10円だから1週間の入院で120万円程度が放射線管理のために必要ということだね。
う〜ん。これだけのコストをかけないと放射線安全が達成されないのだろうか。
今の診療報酬はどうなっているのですか?

学会が1-2位で申請するという努力の結果、平成22年度診療報酬改定で放射線治療の充実が図られており、放射線治療病室管理加算が 500点→2,500点(1日につき)に増額されておる。
日本核医学会が試算されていた6,000点には及ばないものの、関係者の間では大きな進歩と受け止められておるようじゃ。

放射線管理の必要性が認知されたと言うことだから、日本放射線安全管理学会の関係者も慶んでいそうですね。
ここまで管理が必要と言うことは日本の規制は医療機関側にとって厳しいのでしょうか?
New York Timesの記事では議員から1997年の米国原子力規制委員会(NRC)の基準緩和が批判されていますが、日本とはだいぶ違うのですか?

米国の基準は特別?

米国の退出基準は線量拘束値(5 mSv)を担保するために設定されておる。
1997年の改定は放射線防護の基本的な考え方を変えたものではなく、一律の体内残存量基準からもっとも曝露するヒトの線量を拘束値以内にすることでリスクを制御するとしておる。

考え方はわが国と同じですね。

具体的には、体内残存量が30 mCi(=1.1GBq)か患者から距離1 mで0.05 mSv/h未満になるまでと設定されている。

今の退出基準では、体内残存量が0.5GBqという基準が示されていますが、考え方はわが国も基本的には同じですね。

基準そのものは、韓国の規制も同じじゃ。
わが国も、まもなく発出される通知でより明確に示される予定じゃが、一定の行為基準を課した上で、同様の体内残存量が提示されようとしておる。各国の違いは国際放射線防護委員会のICRP Publ.94 非密封放射性核種による治療を受けた患者の解放でも示されておる。

ICRP Publ.94で示されている値ではドイツの250 MBqが小さくて、これと比較されたのかもしれないね。
記事では長距離を走行する公共交通機関(バス)に乗車し、トンネルでは放射線アラームが鳴った例があると記述されています。
この記事の主人公は、嘔吐することを恐れて、飛行機には乗らずホテルにチェックインしたとあります。
この記事では、アメリカでは5%の患者がホテルを利用と記述されています。

きめ細やかなわが国の医療機関の対応

わが国の医療機関のサービスはきめ細かいので、個別安全評価では患者の帰宅経路がきちんと考慮されておる。
アラーム問題は、わが国では火災予防のために高感度の紫外線検出型の火災探知機が用いられており、核医学検査(治療)を受けた患者さんがトイレにはいると火災報知器が鳴動するという事態が報告されているので、それへの対応も含めて学会からの注意「患者が空港などで放射線を検知された場合の対応」が促されている。

さすがにきちんとしていますね。
公共交通機関の利用も適切に指導されていると言うことですね。
記事では、自宅に同居している娘が妊娠中で自宅に戻れなかったとあります。
日本では、このような場合に、放射線治療病室に入院させるなどの対応が取られるのですか?

医療機関では親身に相談に乗り、最適な解説策が得られるようにしておる。

ホテルに泊まった翌日に夫が運転する車で自宅に戻る際には、車内でできるだけ距離を取ったようですが、そのような配慮がわが国でもなされていると言うことですね。
他の多くの症例と同様に、彼女は一回の投与で治療が終わったそうです。
記事では投与量によっては、周囲の人への線量が年間の自然放射線曝露の程度を越えたり、妊婦への線量限度の3から4倍になりえるという科学者の推計があることを伝え、民主党代議士の意見を報じています。

線量推計の妥当性は記事の後段でも議論がある。
I-131ではないが、放射性同位体を投与された患者を年間400回搬送する核医学診療施設の例があり、検討結果が発表されておる。
中村文俊・菅野敏彦・岡田裕之他.FDGを投与された被検者からのPETセンター専属運転手に対する職業被ばく線量の検討.日本放射線技術学会誌.62(8),1105-1110,2006

管理区域から退出後のホテルの利用

やはり日本は検討が丁寧ですね。
患者の5%がホテルを利用するとして、特定のホテル従業員の線量が限度を超えることはあり得るのでしょうか?

推計線量はシナリオ次第じゃが、本当はどの程度線量になり得るかは記事でも情報が把握されていない(=NRCの2010年10月20日の会合ではデータが示されていない)とある。
家族間での線量をモニタリングした例はわが国にもあって人間関係を示すものだと捉えておった。

ニューヨーク市やいくつかの州では患者のホテル利用を推奨しないように放射線科医に技術的助言を行っているようです。
ホテルやタクシーの利用をわが国では制限しているのでしょうか?

わが国では、学会で策定したガイドラインで、この問題をきちんと扱っており、甲状腺アブレーションのためのI-131の外来治療ではホテルの利用制限を明確に示しておる。(pdf file, 242kB)

この記事の2例目は乗り物酔いに弱い娘がI-131治療を受けるので、何とか、入院できる病院を探して治療したけど、夜間に嘔吐を繰り返したとあります。

嘔吐への対策もわが国ではきちんと講じられておるので、外来・入院治療に関わらず放射線防護上の問題はない。

医療機関では何が問題か?

退出基準はI-131の使用量を増加させたものの、がん治療は増加していない理由は、放射線管理のための設備を医療機関が整えることが難しいそうです。
確かに、日本の病院にある放射性排水設備は他の国に比べてもとても立派にみえます。
規制そのものに大きな違いがないとして、何故、わが国では、設備投資が負担とされているのでしょうか?

主には排水設備が負担であるとされておるようじゃ。排水基準そのものは、他国と違いはないので、それを達成するための考え方が異なると考えられる。
排水設備そのものの意義は、ICRP 94でも議論されておる。

医療現場では、我が国では、規制当局からヨ-ドの昇華率を過大に見積もって計算するように命じられているので、過大に排気能力が高い設備が必要で、しかも、わが国だけが高価なチャコールフィルタによる吸着が要求されるために、排水設備だけではなく排気設備も負担になっているという意見がありました。

計算のパラメータは現行の通知でも一定の科学的根拠を有せば、それを用いてもよいとされておる(医薬発第188号通知)。
チャコールフィルタは韓国の医療機関でも用いられておる。
チャコールフィルタの交換問題(ウエザリングにより捕集効率が低下する)はわが国では参議院の委員会で事例化したが(第164回国会 行政改革に関する特別委員会 第12号参議院議員小川敏夫君提出放射性ヨウ素取扱施設における安全確保に関する質問に対する答弁書)、ソウル市のKIRAMSの附属病院では、フィルタの捕集効率をリアルタイムモニタリングして交換時期を最適化されておった。
わが国で製造されたフィルタは焼却処理できることもあり、韓国でも普及しているそうじゃ。
このように少なくともわが国の排気や排水の濃度限度が、他国と比べて著しく低いという事実はない。

単に規制だけじゃなくて、医療機関側が必要と考えている施設や管理の基準を他国とも比較して考えるとよさそうだね。

韓国でも放射線治療病床が足りず、一つの治療病室に複数の患者さんを入院させることも検討されているそうじゃ。

この問題は各国で共通しそうだね。
どのようにレベルを決めるかは色々な要因を考慮しないと行けないのでなかなか大変そうだ。
でも、記事にもあるようにホテルの清掃担当者が妊娠して、たまたま汚染したトイレなどの清掃を担当するというのは、確率論的な安全評価でカバーできるのではないかなあ。

陽電子放出核種では電子の直接曝露の考慮も求められるが、プロとしての一般的なprecautionを払えば、医療機関で安全を確認した退出患者に由来した放射線リスクは無視できると考えられるじゃろう。

記事では手羽先や丸ごとのリンゴは食べ残しが発生するので避けるように助言されるともあります。

わが国でも同じような状況じゃ。
クリアランス制度が導入されていないので、日本の現場の方がよりセンシテイブじゃ。

放射性ヨウ素の扱いでは、患者の尿からのヨウ素の回収でもわが国は優れた技術開発がなされており、ヨウ素の化学形を考慮した管理のあり方の議論も日本が先進的なように思います。

韓国のKIRAMSでは放射線管理担当者と放射線治療病棟の看護師はとってもよくコミュニケーションが取られておった。
日本でも医療関係者と放射線管理担当者のコミュニケーションを深めることが求められるのではなかろうか。

放射線管理担当者からは、どのようなリクエストがありますか?

RIを投与された患者さんがモニターに近づかないように配慮して欲しいという要望が寄せられておる。
直読式モニタがあると、患者さんが近づくと値が変化するのが見えるので、しばらく滞在されることがあるので、異常事象の弁別をする必要が生じるそうじゃ。

クリアランス制度に向けて皆様の理解をお願いしたい

これまでは、患者さんの恐怖心を取るという議論が中心であったのを、関連する分野のことも理解し、より低レベルの放射能も意識する必要があるということかもしれないね。

また、関係する業界の方には、医療分野への貢献も考えていただけるとうれしい。

事実を元に関係者に理解を得ることが大切だね。

謝辞

この記事は、NPO法人放射線安全フォーラムのサイトの解説に基づいています。
また、長瀧重信先生からの情報提供や議論を利用して作成し、絹谷清剛.甲状腺放射性ヨード内用療法に関する最近の話題.甲状腺学会雑誌.1(2),140. 2010を参考にしています。

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Commission Meeting: Briefing on Medical Issues
SCHEDULING NOTE

DRIVE THRU” RADIATION TREATMENTS POSE HIDDEN THREAT TO PUBLIC HEALTH

October 20, 2010: MARKEY: “DRIVE THRU” RADIATION TREATMENTS POSE HIDDEN THREAT TO PUBLIC HEALTH

ARPS | Australasian Radiation Protection Society

Iodine 131 patient management

このサイト内

放射性医薬品投与後は減衰を待って帰宅した方がよいのでしょうか?

環境放射能モニタリングで医療系核種の検出が議論されている例

第103回女川原子力発電所環境保全監視協議会
第107回女川原子力発電所環境保全監視協議会会議録

ホテル利用例

米国での例
わが国の例(その1)
わが国の例(その2)

関連通知

医政指発第1108第2号 平成22年11月8日 放射性医薬品を投与された患者の退出について(pdf file, 430kB)

ICRP 94関連文献

国際放射線防護委員会(ICRP)のドラフト「非密封放射性同位元素を投与された後の患者の管理区域からの退出」の解説 : Release of Patients after Therapy with Unsealed Radionuclides : 第1報(学術交流委員会報告)
国際放射線防護委員会(ICRP)のドラフト「非密封放射性同位元素を投与された後の患者の管理区域からの退出」の解説 : Release of Patients after Therapy with Unsealed Radionuclides : 第2報(学術交流委員会報告)

IAEAによるNRCのその後の取り組みの紹介

Release of patients after radionuclide therapy – Update

The committee recommends that:

NRC guidance and assumptions should be updated, with assistance from experts, and should include current information on actual adiopharmaceutical biokinetics and calculated or measured patient dose rates.
Updated scientifically-based tools should be developed to assist licensees in determining and documenting compliance with the patient release criteria.
Reasonable assumptions should be employed for calculating realistic doses to people from a released patient.
In addition to private residences, release scenarios should address patient release to other locations (such as hotels, public transport, public events).

ヨード内用療法が可能な医療機関の情報

腫瘍・免疫核医学会研究会のヨード内用療法のページ

記事作成日:2010/11/04 最終更新日: 2017/01/19