液体の放射化物のリスクは大きいですか?

医療機関で生成されるものは少量なのでリスクは小さいと考えられます。

Q.サイクロトロンの冷却水は放射化すると思うのですが、危なくないですか?


医療用加速器で放射化しうる液体

サイクロトロン

サイクロトロンの冷却水は、ターゲット用とマグネット用の2系統があります。
いずれも60リットル程度の水を循環させています。この冷却水は、絶縁も兼ねており不純物の混入が厳格に制御されています。より放射化しやすいのはターゲット用の冷却水です。
サイクロトロンでは、他にベビコンやミッションオイルが使われています。
自己遮蔽体にホウ素などを含有した水が使われていることがあります。
Radiologic assessment of a self-shield with boron-containing water for a compact medical cyclotron

治療用加速器

冷却などのために液体が使われていることがありますが、放射化の程度は、サイクトロン施設よりも小さいと考えられます。

冷却水の管理の現状

非密封RIを使用する施設では、管理区域内で発生する排液は、除湿水も含めて、全て、放射性排水設備に一旦集められています。
サイクロトロンを有するPET診療施設は、非密封RIを使用する施設であり、ガンマ線を検出するRI排水モニタが設置されており、排水中のガンマ線放出RI濃度は基準値以下であることを確認したうえで放流されています。
ただし、RI排水モニタの多くは、トリチウムなどのRIは検出できません。

サイクロトロン施設でのトリチウム生成量

そこで、サイクロトロン施設でのトリチウム生成量を評価しました。
冷却水としては、(1)ターゲット冷却水、(2) マグネット、RFシステム及びイオン源冷却水が用いられています。
このうち、より放射化しうるのは、ターゲット冷却水です。

推定の前提

ターゲット冷却水は、通常は、定期的には交換されず、蒸発に伴う減量を補って循環されています。
ターゲット冷却水は、絶縁体としても用いられており、イオン交換水などが使用されています。
不純物の混入は電気伝導度で確認されており、その存在は無視しうると考えられます。
従って、HとO以外の元素は考慮しなくてよいと考えられます。
また、放射化に主に関与するのは中性子だとするとN-13などの生成も考慮不要とできます。
この前提で放射化物の生成量を推定しました。
なお、ビームロスは無視し生成される中性子は、O-18(p,n)F-18のみによるとしました。

結果

Dの同位体存在比を0.015%とすると1gの水の中のDの数は 1.0×1019となります。
F-18の生成量を1×1011Bq/日とすると、その生成されるF-18の個数は、F-18の半減期が109.8分=6588秒であることから、崩壊定数は1.1×10-4なので、9.5×1014 個/日となります。
従って、生成される中性子数は1×10 15個/日程度になると考えられます。
冷却水は中性子生成箇所よりも離れており、入射する中性子の割合は、その一部に過ぎません。
ここで、運転時の熱中性子束密度を2.4×10 08[cm-2 s-1]程度とし、運転期間4年4か月で、週に4回、1回につき1時間運転したとすると、Dの熱中性子捕獲断面積は0.55 mbであるので、生成トリチウムは6 mBq/g程度になり、排水の濃度限度(60 Bq/g)を十分に下回ることになります。
なお、O-16の光核反応による破砕反応でのトリチウム生成は、閾値が25.02 MeVなので無視できます。また、O-16の高速中性子によるspでのTの生成も閾値が20 MeVなので無視できます(放射線物理と加速器安全の工学 p.413)。

考察

このため、加速器の運転管理が適切に行われている限り、冷却水を放射性廃液として扱う必要はないと考えられます。
これに対して、管理区域からの排水を、放射能濃度の確認なしに一般放流しているとの情報が周辺住民や下水処理場等に伝わると、計算上は問題なくても不安をあおるために、パブリックアクセプタンス上は濃度を委託測定などにより確認して放流しているとすべきという意見が現場からありました。
他方、医療機関からは、
・医療用加速器の冷却水受け皿は、事故が起きた場合を想定して、自主的に作っている。国で何らかのガイドラインを定めるべきではないか。
・ 冷却水は閉ループということもあり、特に管理指針は無い。そもそも、建設関係でも医療機関での放射化の管理指針は全く無く国で何らかのガイドラインを定めるべきではないか。
との意見が寄せられました。
しかし、重粒子線治療施設に関して医療法施行規則改正のために検討された厚生労働科学研究辻井班(重粒子線治療等新技術の医療応用に係る放射線防護のあり方に関する研究)リポートでもその必要性について言及はありません。また、医療現場では、設計時に、施設を何十年か運用した後の放射化量を計算して、IAEA SAFETY GUIDE RS-G-1.7と比較しており、自主基準も整備されています。
このため、ここまでの対策を講じるかどうかは、医療機関と周辺自治体、周辺機関との調整で決定すればよいと考えられます。

参考

ターゲット水

9.6 MeV, 25μA,60 minで、O-18(p,t)O-16により、10kBq/ml程度のトリチウムが生成されることが示されています。
Ito S, Saze T, Sakane H, Ito S, Ito S, Nishizawa K. Tritium in [18O]water containing [18F]fluoride for [18F]FDG synthesis. Appl Radiat Isot.61(6), 1179-83,2004
この論文では、環境影響が議論されており、放射線防護上は問題ないと結論づけられています。
O-18水を蒸留再生して繰り返し使用するとトリチウムの濃度は増大しますが、毎週2トンの排水で希釈すると排水中の濃度限度(1060 Bq/g)を超えることは考えられないでしょう。
O-15生成時のトリチウムは東京都老人研佐々木徹さんがご検討されています。
Toru Sasaki, Shin-ichi Ishii, Katsumi Tomiyoshi, Tatsuo Ido, Junko Miyauchi and Michio Senda. Tritium in [15O]water, its identification and removal. Applied Radiation and Isotopes, 52(2), 175-179,2000

 ターゲット水からはH-3以外にV-48,Co-57,Zr-97, Mn-54, Co-56, Sc-46, Zn-65, Na-22が検出できます。ターゲット水にこれらの放射化物が混入する機序は、加速器製造メーカによると、よくわかっていないとされますが、ターゲットへの照射では、ターゲットフォイルを陽子が通過し、ターゲットフォイルに含まれるTiとのTi(p,xn) 反応でV-48が生成され、その際のリコイル散乱などでV-48が選択的に出てくる可能性があるとされています。また、ターゲット水付近は高温高圧になっているため、ターゲット水を格納している金属表面の物質はスパッタリングされやすい状態になっていることから、激しい分子運動レベルでのスパッタリングによりV-48などが選択的にターゲット水中に放出されると考えられるとの説明が加速器製造メーカからなされましたが、チタンの溶解度を考えるとこの寄与は限定的かもしれません。
Co-57は、チタン合金のNi−58由来(Ni−58(n,np)やNi-58(n,2n)Ni-57→Co-57)、Zr-97はチタン合金のZr-96由来(Zr-96 (n,γ) Zr-97)が考えられることから、3気圧程度のターゲット水が陽子の照射により高温になり気泡が生じ、陽子がターゲット水を透過しターゲット水の容器壁に入射することも考えられました。
V-48の生成濃度を18 MeVのサイクロトロン施設から試料提供を受け計測したところ、運転終了から数時間経過後の換算値で10kBq/gでした。ターゲット水の量は約2gなので、生成量は100kBqを超えません。また、減衰を考慮すると5回分の照射済みターゲット水が一事業所に同時に存在することはあり得えません。従って、このV-48は放射性物質として扱う必要はないと考えられます。
 ただし、加速器メーカーでは、ターゲット水は放射化物で適切な処理が必要としており、ターゲット水の取り扱いを十分注意するよう、各医療機関に要請しており、各医療機関では、それに従った管理が行われているのが実情です。このため、過度にならず適切な管理がなされるように指針を策定する必要があると考えられました。
なお、ターゲット水中のV-48は、ターゲット水の性状をモニタリングする指標となりうるかもしれません。例えば、通常の照射でのレベルより回収水内の不純物(V-48など)が多かった場合は、ターゲット内に充填する水の量が少ないあるいは、ターゲット水が沸騰しているなどの現象が想定できると考えられます。

核融合科学研究所

核融合科学研究所での冷却水中でのトリチウムの生成は年間10 Bq (濃度は1×10-4(Bq/L))で、下水への排出に伴う環境影響評価もなされています
PET用のベビーサイクロトロンを4年間程度運転するとし、冷却水を1lとすると、冷却水中の生成量は上の計算から6Bq程度となります。
このように、同程度の生成量に過ぎませんので、冷却水中の不純物などに由来した放射化物が生成されるなど想定外のことがおきない限りは、核融合科学研究所の事例と同様に評価でき、問題がないことを示すことができます。

JIRA

JIRAのQ&Aでは、管理区域内の液体はRI排水として扱う必要があるとの見解を述べています。

遮へいにほう素を含む水を用いている場合の排水の安全性確保

排水中の化学物質

排水の環境負荷では放射性物質の量だけでなく化学物質なども考慮する必要があります。
中性子を吸収させるためにホウ素を用いている場合には、ホウ素の環境放出基準も満足させる必要があります。
例えば30tの遮蔽に4%のホウ酸水が使われていて、10年に一度は遮蔽水を排水すると仮定すると、
ホウ素の環境放出率は平均で30t×4%/10y=0.12t/yとなります。
このような医療機関が20箇所あるとすると国内での環境放出率は2.4t/yとなります。
濃度基準として10 mg/Lを満たすためには、1年間での排出を仮定すると、一箇所の医療機関あたり120ktの排水が必要になります(さらに自治体条例などにも従う必要がある)。

一方、PRTRデータでは年間の水域へのホウ素の排出量は4ktで下水道業からの排出を除くと2.8ktですので、
医療機関由来の寄与は2.4/2.8kと0.1%に達しません。
I-131の環境放出に比べると医療由来の寄与はとても小さいと考えられます。

環境省による関連課題の検討

平成21 年度ほう素、ふっ素、硝酸性窒素等に係る排水基準検討調査(温泉排水処理技術開発普及等調査)

廃棄物としての安全性

Q.中性子遮蔽のためにホウ素を加えた遮蔽体を用いています。
放射化した遮蔽体を日本アイソトープ協会は引き取ってくれるのでしょうか?

A.放射性廃棄物の保管廃棄の委託は今のところ日本アイソトープ協会にしかお願いできません。
しかし、保管廃棄を委託する廃棄物は安全性が担保されている必要があります。
ほう素は土壌環境基準で溶出に関し環境上の条件が定められています。

従って、この基準を満たすことを証明しなければ、日本アイソトープ協会では引き取れません。
ほう素の原料である硼砂は水に溶けるので、硼砂を用いた遮蔽体ではこの基準を満足しないことが考えられます。
一方、炭化ほう素は安定なので、これを用いたコンクリートは廃棄物としての安全性に問題がないと考えられます。

加速器以外の放射化

原子炉・加速器によらない放射化
金沢大学理学部附属低レベル放射能実験施設 小村和久

10-4cm-2s-1 レベルの中性子束が検出可能となっている。

提案例

放射線治療装置における放射化物の管理に関する学会標準 初版(平成 26 年 4 月 14 日)への修正案例

(2)排水設備の必要性

医療用リニアックでは排水設備の設置は必要としない。装置には冷却水システムが存在し、循環システムとなっており冷却水が補充されることはある。その一次冷却水(循環水)を採取して測定を行ったが、採取直後の測定、そしてHP-Ge検出器での長時間にわたる測定でも放射能は検出されず、液体シンチレーションカウンタでも有意な放射能は検出されなかった。
 一次冷却水は循環システムとなっているが、一次冷却水が保守点検等で交換されることがある。
そのため、24年3月文部科学省科学技術・学術政策局 原子力安全課放射線規制室事務連絡「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律並びに関係法令、省令及び告示の施行について」から、放射線障害防止を行うため、安全側に解釈して10MeVを超える装置について定期的に一次冷却水の交換排水を行う場合、実測データまたは、あらかじめ計算等により放射化物として取り扱う必要がないことが確認したうえ、排水することが必要である。また、冷却水システムには二次冷却水システムも存在するが、こちらは照射されることはないので、放射化の考慮は不要である。

記事作成日:2010/02/14 最終更新日: 2017/06/05