放射性医薬品の輸送と放射線安全

放射線診療は医療機関だけでなく様々な分野の方々に支えられて成り立っています。

日本通運株式会社 東京航空支店 国内貨物 営業開発第二課 加藤寿夫
国立保健医療科学院 生活環境部 山口一郎

医療放射線防護に関係する方々として放射性医薬品を搬送する運送会社で放射線安全管理を担当されている加藤さんに、放射性医薬品の輸送での放射線安全の確保の取り組みを解説していただきます。

放射性医薬品の輸送の実態

山口:わが国には核医学検査を行う医療機関が1,301箇所あり、放射性医薬品の供給量はF-18で10TBq、Mo-99のジェネレターが160TBq、Tc-99mで316TBq、I-131で11TBqと膨大な量が扱われています 。どの程度の量の放射性医薬品を医療機関に運んでいますか?
加藤:全国医薬品機関への輸送件数ということでしたら、月間21,000件~ 23,000件というところです。毎日、千件程度の輸送が行われています。
貨物の輸送指数としてはA型医薬品で最大0.5程度でしょう。
輸送指数とは、 輸送物の表面から1 mの最大線量当量率[μmSv/h]×100のことです。輸送時には、コンテナから表面から1 mの線量当量率は100[μSv/h]以下としなければなりません。これは放射線安全のために国土交通省が定めた基準で薬事法でも同様に規定されています。
(一番下の図では、おおよそ1 mの距離でH(10)が0.009 mSv/h程度であるので、輸送指数は0.9になるようです)

関係する法律

山口:放射性医薬品の運送業務では、どのような法律が関係しているのでしょうか?
加藤:当社は、放射性医薬品A型、放射性医薬品L型の「輸送」を主体に行っています。放射性医薬品を当社ではRI医薬製品と呼んでいますが、その輸送では、「道路運送車両法」 、「航空法」、それに「労働安全衛生法(電離放射線障害防止規則)」、「薬事法(輸送部分)」が関係します。
出荷荷主が放射性医薬品のタイプ(A型・L型など)や申告線量 (輸送指数)、納品必着時間が指定し、それを運送会社が受託します。受託にあたっては、コンプライアンス遵守検討を行い、実輸送に入ります。

医療機関側に求められる配慮は

山口:医療機関で放射性医薬品を受け取る際に気をつけた方がよいことはありますか?
加藤:通常、A型医薬品は出荷メーカーから指定場所、指定時間でお届けをしています。L型医薬品は、通常の配達で行なわれます。
ドライバーには、配達時の手順を教育してありますが、お客様には、受領する際は、送り状と製品の照合と外装確認をお願いします。

放射性医薬品の輸送の特徴

山口:通常の医薬品の運搬と放射性薬品の運搬では、どのような点が異なりますか?
加藤:常温医薬品は通常、トラック便輸送が主体で行なわれます。雑貨と同じ輸送扱いと理解ください。保冷医薬品は、前項のとおり、保冷医薬品共同配送として、保冷専用の車で輸送されます。
放射性医薬品のL型は、航空搭載は危険品として小口扱いですが、陸上輸送の場合は、他の貨物との混載(積み合せ)配達になります。
放射性医薬品A型は、医療機関納品時間、納品業務に制約があります。
そのため、集荷時は専用車での輸送作業、航空搭載時は危険品として小口扱い、到着地では、医療機関に最も近い配達店舗まで混載輸送され、そこから医療機関には、チャーター車で配達されるのが普通です。
放射性医薬品A型、L型は、ともに航空便として扱われています。

医薬品保冷共同配送システムとは

山口:医薬品保冷共同配送システムとはどのようなものですか?
加藤:保冷医薬品輸送用の5度±3度に保たれた車両を持つ、医薬品運送 業者が、いろいろな医薬品メーカーから保冷医薬品を集荷し、混載(積合せ)で輸送にあたる輸送システムです。運送業者の営業の得意でない地域への輸送については、その土地の保冷医薬品取扱業者と提携し、全国配送網が作られています。ただし、この輸送は宅配と違い、医薬品問屋へのライン配達を主としており、医療機関への配達は行なっておりません。
医薬品問屋への配達はバス路線のように、定時に配達されますが、点在する病院配達には対応できないのが実態です。医療機関間で調整していただけると効率的ですが、そのような配慮がなかなかなされないのが現状です

運送業務に従事する労働者が受ける線量は

山口:スタッフはどの程度の線量を受けているのですか?スタッフへの教育ではどのように工夫していますか?
加藤:運送業者が放射性医薬品(物質も同じ)を扱う場合、年間被曝を1ミリシーベルト以内にするよう法で定められています。多くの数量を扱うドライバーや仕分作業員は、被曝線量測定バッチをつけ、年間1ミリシーベルトを超えないように管理が行なわれています。関西地区など自然放射線の線量率が高い地区では、バックグラウンドの線量も考慮しています。取扱う数量が少なく、あきらかに年間1ミリシーベルトになる可能性が無い人は、測定バッチの着用不要としています。
放射性医薬品を扱う店の管理者(課長)の教育は、年1回が法定内容の教育を行い、ドライバーは、紙面による教育を行なっております。当社の場合、教育用の放射性物質取扱手順書があり、被曝管理については、荷主から放射線被曝防護計画書の提示をうけ、その内容に沿って教育が行なわれています。
適時ですが、荷主同行による現場訪問による教育も行なわれています。
また、日本アイソトープ協会主催の模擬事故訓練に参加するとともに、放射性医薬品メーカーと一緒に各作業店で事故防止・事故時対応講習などを行なっています。

ゼバリンへの対応は

山口:新しい放射線免疫治療法がいよいよわが国でも開始されるということで関心を集めています。ゼバリンを用いた治療開始への準備状況を教えてください。
加藤:各放射性医薬品メーカーが新発売としてゼバリンを発売するとのことですが、詳細な説明は現時点、ありません。
ただ、ゼバリンは放射性医薬品A型白ラベルのため、通常で取扱っている放射性医薬品A型となんら変わらない扱い方で輸送を行なうものと思います。

同時に運ばれるペットが受ける線量は

山口:航空機内の荷物室のペットは運ばれている放射性医薬品には被曝しないのでしょうか?
加藤:航空機貨物室に放射性医薬品を積む際、危険品として、その性質に応じ貨物室へ置く場所が適時に決められます。
そのため、放射性医薬品の近くにペットを積載することは無く、(規定でそばに生き物はおかない)一定の距離がおかれますので、ペットが被曝することはありません。また、放射線測定素子などの荷物とも一定の距離が取られます。

放射化物の運搬は?

山口:「高価な加速器の部品は放射化物となっても再利用することが多い」とされています 。これらの加速器の運転で生成された放射化物の運搬サービスはどのようにすれば受けられるのでしょうか?
加藤:放射化物の放射線量を測定し、輸送希望サイズ等を依頼元が輸送業者に打診することで輸送を行なうことができます。放射化物がIP物質なのか、L型物質なのか、A型物質なのかを出荷者が測定し申告をいただき、その内容に沿って梱包方法を決めて、輸送方法を策定するということかと思います。常識的に考えれば、輸送容器を作成し、表面線量を確定したうえで、輸送車を決定し、被曝管理ができる人と要員を配置し、輸送にあたるということでしょうか。
山口:わが国には、1,001台の医療用加速器があり、運転終了時までの壁での積算熱中性子束が1013[cm-2]程度に達しうる可能性のある医療用小型サイクロトロンは、1997年に比べると10倍以上増加し127台となっています(2007年3月31日現在)。サイクロトロン建屋の内面壁など放射化した大きな遮蔽体を別の医療機関で使う場合の運搬サービスはどのようにすれば受けられるのでしょうか?
加藤:いままで例はありませんが、サイズと線量を確定いただき、輸送が可能な梱包を行い、輸送にあたるということでしょう。この、特別な輸送物質については、当社本社に原子力・核物質輸送専門セクションがあります。必要であれば、このセクションと連携することになるでしょう。運送会社では、様々な輸送のご相談を承っていますので、特別な例は個別にご相談下さい。

見学した学生の感想

放射線医薬品輸送の見学を終えて
日本医療科学大学 保健医療学部 診療放射線学科1年 林 美里

 私たち1年生はまだ専門科目の授業が少ないため、放射線に関する知識が乏しく、どのような過程を経て病院に放射性医薬品が届けられるのか考えたこともありませんでした。被ばくの心配があるのは放射線を扱う技術者や研究者、そして我々医療に携わる人々だけだと思っていました。しかし、今回のこの貴重な体験を通して、我々に放射性医薬品を提供してくださる運送業の方々も被ばくの心配があり、放射線に対して十分な教育を受けていることを知り、驚きました。また運送のトラックの荷物スペースには鉛でできた被ばく防護板があり、運転席と十分な距離を保って荷物を載せるという工夫がなされていて放射線防護の三原則である“遮蔽する”と“距離を保つ”という点がクリアされている上に荷物を移し変える作業は驚くほど速く“作業時間を短縮する”という点もクリアしていることに感心しました。
 これらの作業にかかわっている人々は多少の被ばくをすることから、被ばく測定バッジを着けて作業を行っていることを知り、これらの人々のおかげで患者さんに検査や治療を提供することができるということを忘れてはならないと感じました。

見学実習レポート
城西医療技術専門学校 診療放射線学科
3年 米沢 健

 今回、私たちは、日本通運株式会社、東京航空支店にて、放射線医薬品の輸送での放射線安全の確保の取り組みを見学させて頂きました。普段、放射性医薬品の性質や診療への応用については勉強していたつもりでしたが、輸送についてはあまり学んだことがなかったので、非常に有用な経験となりました。

 放射性医薬品は一定の半減期に従って壊変するために、薬効が刻々と変化していきます。そしてその性質上、迅速な輸送体系の確立が極めて重要になってきます。その為、メーカーの工場から夕方出荷された医薬品は、翌朝の医療機関での使用に間にあうように夜間から未明にかけて配送されます。そして、その間、工場→空港→地区配達店→納品先病院へと荷物は細分され、またその都度、確認チェックや手配済み配達車の立会引き渡し等が行われていました。1つのRI医薬品が医療の現場に届けられるのに多大な労力が掛けられていることに驚くと共に、輸送の完遂は医療機関が納品物の最終確認をして初めて成し遂げられるのだと、その責任を強く感じることとなりました。

 また放射線医薬品は放射性物質であるため、取り扱いを誤ると放射線障害を生ずる怖れがあります。そのため、放射線医薬品を扱う店の管理者(課長)は、年一回の法定内容の教育を受け、ドライバーには、紙面による教育が行われているということでした。そこで実際に教育用のテキストを拝見させて頂きましたところ、私たちが普段授業で使用している教科書と比べて、文章が噛み砕かれていて理解しやすく、業務に対してより実践に即した内容になっており、とても興味深いものでありました。

 私たちは、放射性医薬品輸送の現場を見学するという貴重な体験をさせて頂き、放射線診療は医療機関だけでなく様々な分野の方々に支えられて成り立っていることを認識することができました。PET検査や、放射線治療など、放射線医薬品の医療への貢献は、今後ますます増加していくものと思われます。診療放射線技師を目指す学生として、放射線安全の確保について再考すると共に、医療への貢献に対して使命感を新たにすることとなりました。

出典

医療放射線防護連絡協議会ニュースレター.第52号

放射性医薬品の輸送実態


原子力安全技術センター杉田克彦.平成19年度放射性物質の輸送状況の調査(pdf file, 556kB)

事故対応対策

自治体での放射線災害対応訓練の事例

神戸薬科大学と神戸市消防局が協力!放射線災害時の連携訓練を実施

訓練内容

放射性物質を搬送中の車両が高速道路上で単独事故を起こし、助手席の同乗者が車内で意識を失っている。また車内の荷室に置かれていた放射性物質の入った容器が、事故の衝撃により車外に投げ出されている。

線源輸送時の事故への保健所の対応

平成14・15年度厚生労働科学研究費補助金がん予防等健康科学総合研究事業 総括研究報告書より抜粋 (主任研究者 鈴木 元) 2006/10/13
地域における放射能事故発生時の対応に関する研究  説明平成14・15年度の厚生労働科学研究費補助金・がん予防等健康科学総合研究事業「地域における放射能事故発生時の対応に関する研究」の中から市町村行政当局、中でもとりわけ保健行政担当部局の対応力を向上させる目的でまとめられたもの。地方都市で放射性物質を搬送中の車両が交通事故に遭遇し、放射能散布事故が発生した事態を想定した対応を記述している。

線源盗難事例

密封された放射性同位元素の所在不明について(株式会社岩村組 日沿道仲間町道路その7工事)
非破壊検査用のエックス線装置の盗難事例も発生しています。
イリジウム192線源の所在不明について(医療機関等における早期発見のための注意喚起) 2008/04/15

日本アイソトープ協会

放射線防護計画等に関する運送事業者等との勉強会のまとめ

報道例への対応例

インドのAtomic Energy Regulatory Boardによるpress release資料

09-October-2016 Latest Press Release: No Leakage from the Radioactive Consignment at Indira Gandhi Cargo Terminal, New Delhi on October 9, 2016

記事作成日:2010/10/11 最終更新日: 2017/02/21