静磁場の生体影響

静磁場の生体への影響は未解明な面が残されています。
しかし、影響があるとしても健康リスクとしては極めて小さい(=検出するのが困難なくらい)と考えられています。

MRI検査に携わっているスタッフが妊娠していることが判明しました。
彼女は、業務上、撮影室の中まで出入りします
管理者として配置転換や作業内容の制限を考慮した方がよいのでしょうか?


最近、オープンMRIが出てきているようだけど、
妊娠した看護師さんが、オープンMRIの診療補助業務についてもよいかどうかという疑問であるようです。

何が体に影響があると心配かな?

磁場だと思う。

地磁気のことは知っているかな?

磁性細菌やら鳩、ニジマス、ミツバチなどは数十μTの地磁気を利用しているんじゃないの。
人だとわからないと思うけど。

磁場の影響としては何が考えられそうかな。

想像力が大切だものね。
電気を帯びたものが磁場下で動くと力を受けるはずだ。

血流や体液など移動するものへの影響ということじゃな

磁場があったら異方性のある分子が影響を受けそうだ。

磁気配向じゃな。
5T程度あったらモーゼ現象が観測できる。

フリーラジカルも磁場の影響を受けたりして。

これはまだよくわかっておらんようじゃ。
そもそも人類が強磁界を手に入れるようになったのは最近のことじゃ。
とりあえず、WHOはファクトシートNo.299電磁界と公衆衛生:「静電界及び磁界」を出しておる。
日本語訳はこちら

静磁場も電磁界なの?

波長を無限大と考えればよいじゃろ。
歴史的にも、電磁界の中で扱われてきた。

静磁界に関して日本には何か基準があるの?

日本には今のところ基準がない。
少なくとも大きな健康リスクを与えるとは考えられておらんのじゃ。
ただし、原子力安全・保安院の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会電力安全小委員会電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書では、
ICNIRP が1998 年に定めた一般の人々への曝露ガイドラインの制限値(参考レベル)(100 μT(50Hz)、83μT(60Hz))を基準値として採り入れる等必要な諸規定の整備、改正を行うべきである。
としておる。

メーカーの取り組みは?

日本工業規格では、JIS Z 4951で、磁束密度が0.5 mTを超えたエリアを立入制限区域とするよう規定しておる。

本当に磁界は健康に影響与えるの?

100 μTより遙かに高いレベルの磁界だと、人の神経や筋肉を刺激したり、中枢神経系の神経細胞の興奮性を変化させるような影響があることは明らかじゃ。
これらは、科学的証拠によって確立された現象として認められておる。
しかし、これが健康の何らかの悪影響を与えるかどうかははっきりしておらん。

原理は?

磁界が人体に及ぼす本質的な影響は、時間変動する外部磁界に曝露されることによって体内に誘導される電流や電界に起因しておる。
2Tを超える磁場環境で頭を動かすと、めまい、金属味がする、閃光を感じる(磁気閃光)などの知覚異常が出ることがあるのじゃ。

機器への影響はどうなの?

電子顕微鏡は0.3μT程度の変動磁場で影響を受けることがある。
また、CRT等の機器は、100 μT程度の地磁気レベルの磁束密度で影響を受ける可能性がある。

身の回りのものでは?

アナログ時計は着磁のため1 mT程度で影響を受けることがある。
クレジットカードなどの磁気情報も1 mT程度で影響を受けることがある。

だからMRIの検査室には持ち込まないんだね。

建屋の構造物が着磁すると、思わぬ場所に影響が出ることが考えられそうじゃ。

静磁場の作業場で国際的な基準はどうなっているの?

International Commission on Non-Ionizing Radiation Protectionの基準(pdf file, 213kB)は、
静磁場で頭を動かすことによりめまいや吐き気を防止するために設定されておる。
推奨されている基準は、最大許容は2Tじゃ。
四肢のばく露に限ると限度値は8Tとされておる。
一般公衆に対する持続的な磁場は400 mT とされておる。

EUはどうしているの?

DIRECTIVE 2004/40/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 29 April 2004
on the minimum health and safety requirements regarding the exposure of workers to the risks arising from physical agents (electromagnetic fields)

が制定され、2008年4月までに各国が規制整備することとされておったが、医療機関のMRI検査を阻害しかねないために、その適用がペンデイングになっておる。

なかなか難しそうだね。
MRIの漏えい磁場は測定できるの?

JIRAがMR施設の漏えい磁場測定マニュアルを発行しておる。

では、まとめをお願いします。

少なくともこれまでのところMRIに従事する医療従事者への職業曝露により何らかの健康影響が観測されたという事実はない。
このため、MRIに従事する職員の管理について専門の学会などから特別な指針は示されておらん。
ただし、米国FDAでは妊娠している患者へのMRI検査について注意を喚起しておる。
もっとも、この注意喚起はMRI検査が胎児に影響を与えるという根拠に基づくものではない。
これまで得られている知見から、妊娠している医療従事者にMRI検査に従事することで影響を与えうると考えられるのは、磁場傾斜と電磁界曝露じゃ。
2Tを超えない静磁場は、ヒトには影響を与えないとされておる。
このため、スキャンが行われているMRスキャナー室に入ることがないのであれば、妊娠している医療従事者もMRI検査の従事できるという方針を示すのは合理的だと言えそうじゃ。
スキャン中にMRスキャナー室に入室することはありえないので、この方針は妊娠している医療従事者もMRI検査に従事できることを意味する。
ただし、近くで観察する必要がある患者を担当することやMRスキャナー室で造影剤を注入し、注入後直ちに撮像するような業務は例外と考えられる。
一方、MRIレベルの磁場・電磁界環境での職業上の曝露が、妊娠中の技師や胎児に悪影響を及ぼすという確固たる根拠はないものの、造影検査や小児検査において装置本体近傍にいなければならない状況等なるべく避け、妊娠中は必要以上に曝露しないよう配慮した方がよいとの意見もある。

みんなで話し合って決めるしかなさそうだね。

電磁波の健康影響

電磁波の健康影響は こちらをどうぞ。

補足

ICNIRP

Fact sheet(pdf file, 98kB)
Fact sheetの和訳(pdf file, 238kB)

環境省

身のまわりの電磁界について(pdf file, 1.2 MB)

労働安全衛生法での規定

労働安全衛生法では、静磁場への曝露に関して基準は定められていません。
JISではIEC(国際電気標準会議) 60601-2-33に準拠し、立入制限区域については、装置に恒常的に取り付けられたカバーの外側に0.5 mTを超える漏えい磁場を生成するMR装置や電磁干渉レベルがJIS T 0601-1-2に適合しないMR装置についてカバーを設けることが求められています。

日本医学放射線学会の指針

日本医学放射線学会では放射線診療事故防止のための指針 ver.4において、「漏洩磁場強度が0.5 mTを超えないような立ち入り制限区域をMR装置周辺に設定し、警告を表示する。」と記載されています。また、妊婦は検査対象としては禁忌になるものの、従事させてはならないとの記述はありません。
日本医学放射線学会「放射線診療事故防止のための指針Ver.4」

EU

DIRECTIVES
DIRECTIVE 2008/46/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
of 23 April 2008
amending Directive 2004/40/EC on minimum health and safety requirements regarding the exposure of workers to the risks arising from physical agents (electromagnetic fields) (18th individual Directive within the meaning of Article 16(1) of Directive 89/391/EEC)

MRIの安全性

宮地利明:MRIの安全性.日放技学誌 59,1508-1516, 2003.
情報提供:「妊娠中のMRI検査の胎児期、幼年期への影響」論文の紹介

3TのMRIの安全性のレビュー

川光 秀昭, 土橋 俊男, 宮地 利明, 杉本 博, 土`井 司, 村中 博幸, 小倉 明夫, 松田 豪, 奥秋 知幸: 3T-MR装置の安全性 . 日放技学誌, Vol. 64, No. 12,
1575-1599, (2008) .

保健医療科学の特集記事

池畑政輝.静磁界と健康

論評


磁場の生体影響研究の必要性
大阪大学名誉教授 中馬 一郎

MRIに従事する職員の管理

磁界に関してわが国では何らかのヒトに対する基準はありますか?

 
ありません。

原子力安全・保安院のワーキンググループによる勧告

ただし、原子力安全・保安院の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会電力安全小委員会電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書では、

ICNIRP が1998 年に定めた一般の人々への曝露ガイドラインの制限値(参考レベル)(100 μT(50Hz)、83μT(60Hz))を基準値として採り入れる等必要な諸規定の整備、改正を行うべきである。

としています。

日本工業規格

また、日本工業規格では、JIS Z 4951で、磁束密度が0.5 mTを超えたエリアを立入制限区域とするよう規定しています。

磁界の健康影響は観測されていますか?

 
100 μTより遙かに高いレベルの磁界に、人の神経や筋肉を刺激したり、中枢神経系の神経細胞の興奮性を変化させるような影響があることは明らかです。
このことは、現在に至るまで、科学的証拠によって確立された現象として認められています。
磁界が人体に及ぼす本質的な影響は、時間変動する外部磁界に曝露されることによって体内に誘導される電流又は電界に起因しています。
2Tを超える磁場環境で頭を動かすと、めまい、金属味がする、閃光を感じる(磁気閃光)などの知覚異常が出ることがあります。

磁界は機器に影響を与えますか?

 
電子顕微鏡は0.3μT程度の変動磁場で影響を受けることがあります。
CRT等の機器は、100 μT程度の地磁気レベルの磁束密度で影響を受ける可能性があります。
アナログ時計や着磁のため1 mT程度で影響を受けることがあります。クレジットカードなどの磁気情報も1 mT程度で影響を受けることがあります。
また、建屋の構造物が着磁する事で、思わぬ場所に影響が出ることが考えられます。

静磁場の作業場の国際的な基準を教えてください。

International Commission on Non-Ionizing Radiation Protectionの基準(pdf file, 213kB)は、静磁場で頭を動かすことによりめまいや吐き気を防止するために設定されています。
推奨されている基準は、時間加重平均で作業日あたり200 mT で最大許容は2Tです。
一般公衆に対する持続的な磁場は40 mT とされています。

WHOの考え方を教えてください。

Fact sheet No.299をご覧下さい。
Electromagnetic fields and public health
電磁界と公衆衛生:「静電界及び磁界」(pdf file, 352kB)

EUの考え方を教えてください。

DIRECTIVE 2004/40/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
of 29 April 2004
on the minimum health and safety requirements regarding the exposure of workers to the risks arising from physical agents (electromagnetic fields)(pdf file, 152kB)
が制定され、2008年4月までに各国が規制整備することとされていましたが、MRIを阻害しかねないために、その適用がペンデイングになっています。
Commission to postpone and amend electromagnetic fields legislation to protect MRI
DIRECTIVE 2008/46/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
of 23 April 2008
amending Directive 2004/40/EC on minimum health and safety requirements regarding the exposure of workers to the risks arising from physical agents (electromagnetic fields) (18th individual Directive within the meaning of Article 16(1) of Directive 89/391/EEC)(pdf file, 41kB)

漏えい磁場の測定の方法を教えてください。

JIRAがMR施設の漏えい磁場測定マニュアル(pdf file, 1.5 MB)を発行しています。

衣料用品との相互作用(火傷)

MR装置と衣料用品との相互作用(火傷)について

MRI装置での事故事例の実態調査

土’井 司, 山谷 裕哉, 上山 毅, 錦 成郎, 小倉 明夫, 川光 秀昭, 土橋 俊男, 奥秋 知幸, 松田 豪, 熊代 正行: MR装置の安全管理に関する実態調査の報告 —思った以上に事故は起こっている— . 日放技学誌, Vol. 67, No. 8, 895-904, (2011) .
MRI 検査における安全管理
3T MRIの吸着事故を防ごう
3T MR装置の安全性
MRI 検査における人体への局所温度上昇の検討 ―ループファントムを用いた局所温度の測定―

サーモフレクト毛布(アルミ裏打毛布)

MRI警鐘事例について
MRI(磁気共鳴画像法)検査室内での磁性体吸着事故や熱傷事故等について

対策のポイント

磁場を大きくした装置の入れ替え後の対応策の明確化
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記事作成日:2010/04/06 最終更新日: 2017/06/05

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