リスクの程度をどう伝えればよいですか?

損失余命は、何かを選択する場面で、それぞれのベネフィットとリスクを伝える場合に用いると判断の参考になるかもしれない。

AとBのどちらかを選択するのではないときに、Aに比べてBのリスクの大きさが小さいと説明しても、納得されがたいことがあります。

その理由として、対象とされたBの選択が恣意的であり、ご都合主義的だと感じられることが考えられます。

リスクの程度を恣意的にならずに定量的に伝えるための提案としては、
中谷内一也先生によるリスクのモノサシの提案
があります。

リスク認知に関する基本的な概念

非現実的楽観主義

認知バイアスがあるために、リスクの程度は正しく伝わらないと言う限界があります。
(用語集の「非現実的楽観主義」を参照)

リスクの表現方法

差で表現する方法と比で表現する方法がある

ある行為に伴う放射線曝露がなくても発がんで死亡する確率があるが、それを基準として、ある行為に伴う放射線曝露によるリスクの増加を差や比で表現する。
差で示したものが寄与リスクで、比で示したものが相対リスクである。
また、その増加割合を相対的に(=非曝露群のリスクを基準にして)表現することもある。
差を相対的に示したものが寄与リスク割合で、比を相対的に示したものが過剰相対リスクである。
このようにリスク評価では、非曝露群のリスクが基準になるので、非曝露群のリスクが異なる集団では、そのまま比較ができない。
例えば、もともとリスクが大きい人はある行為に伴う曝露によるリスクが相対的に小さくなる。だからといって、その行為に伴う曝露を制御する意義が乏しいと考えるのは適切ではない。

相対リスクと寄与リスクの計算例


観察された死亡数を用いた計算例

曝露した線量[Gy] <0.5-1 <1-2
相対危険(5 mGyと比較して) 1.15 2.13
寄与危険(5 mGyと比較して) 2.9×10-3 2.2×10-2

【データの出典】
被爆時年齢が 30歳の人の固形がんリスクは 70歳で1Sv当たり 47%相対リスクとして上昇した(Radiat Res 160(4):381-407, 2003)。

リスクの伝え方のよくない例

胸部X線撮影に比べるとこのX線CT検査の放射線リスクは2千倍になります。
元のリスクの程度が理解できていないと「2千倍」だけが印象に残ってしまう。

リスクの程度を他の手技と比較する手法

大分看護科学大学の伴信彦先生からいただいた医療処置でのリスクと比較するというアイデアです。
このアイデアの有効性の検証はまだなされていませんが、もしかしたらリスク認知の偏りを修正するのには有効かもしれません。

上部内視鏡検査

前処置による偶発症の発生頻度:7万検査に1人(0.0014%)
前処置による死亡頻度:1,000万検査に1人(0.00001%)
上部内視鏡検査における偶発症の発生頻度:14,000検査に1人(0.007%)
上部内視鏡検査における死亡頻度は22万検査:1人(0.00045%)
(日本消化器内視鏡学会)
最新のデータはこちら

消化器内視鏡関連の偶発症に関する第5回全国調査報告─2003年より2007年までの5年間─

関連した読み物

内視鏡検査と事故 がんを100件発見するのに死亡事故が1例起こる

大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査に関連した偶発症に関するアンケート調査報告-新潟大腸肛門病研究会の幹事施設を中心に-
85,507件中2件で10万分の2

参考事例

大型自動回転ドアの事故発生確率
・死亡事故:4×10-4/台・年(=500台の大型自動回転ドアを10年間観察すると死亡事故が2件ある)
・骨折事故:9×10-3/台・年
・軽度な事故:4×10-2/台・年(=500台の大型自動回転ドアを1年間観察すると軽度な事故が20件ある)

中谷内先生のリスクのモノサシの適用例

リスクのモノサシ

コーヒーのリスクが平均余命損失で6日間とあるのは、どう計算しているのですか?

A Catalog of Risksで示されている考え方です。

前提

・膀胱がんの原因が男性では24%、女性では49%がカフェイン摂取による
・全米での膀胱がん死亡のうち、男性1450人、女性1350人
の死亡がカフェイン摂取による
・全米で1億8千万人がコーヒーを飲む
・膀胱がん発症時の余命損失は15年
・定常状態を仮定し、カフェイン摂取者が膀胱がんで死亡する確率(1億8千万人のコーヒー摂取者を一年間観察し、そのうちの膀胱がんで死亡する確率(=(1,450+1,350)/180 M))を計算し、膀胱がんで死亡する場合の余命短縮に得られた確率をかけて平均余命短縮を計算している。

・膀胱がん以外の発がんは無視
・カフェインの発がん以外の健康影響は無視

議論

推計には前提と不確かさがある。
この論文中では、diet soft drink中のカフェインと糖分(体重増加)のリスクの比較を示している。

出典

A Catalog of Risks

膀胱がんのリスク

喫煙、コーヒー、緑茶、カフェイン摂取と膀胱がん発生率との関係について

社団法人全日本コーヒー協会

コーヒーと健康

放射性医薬品

I-131を用いた治療

I-131を7.4GBq投与することを考えます。
成人での経口摂取時の線量換算係数として2.2E-08[Sv/Bq]を用いると実効線量は163[Sv]になります。
I-131から与えられたエネルギーのうち、甲状腺に与えられたものは、ここで推計しようとしているリスクには寄与しないと考えられます。
投与されたI-131のうち35%が甲状腺に取り込まれるとすると、その組織線量換算係数は5.0E+2[mGy/MBq]とされています。
74GBq経口投与した場合には、甲状腺の線量は3.7kGyとなります。
I-131を用いた治療での実効線量を考える際には、甲状腺への線量を除く必要があります。
I-131を経口摂取した際の赤色骨髄への組織線量を8.6E-2[mGy/MBq]とすると7.4GBq投与時の赤色骨髄への組織線量は約0.6Gyとなり、組織加重係数として0.12を用いると80 mSv程度の寄与を実効線量に与えることになります。
仮にI-131を74GBq経口投与した際の実効線量を0.5Svとし、投与を受けた方の年齢を50歳で余命損失を0.1[日/mSv]とすると、50[日]の余命損失になります。

これまでの議論の大前提

そもそも、何かで迷惑を被ったときに、リスクが小さいから、気にしないようにと科学的・論理的に丁寧に説明してもらうだけで、あなたは納得できますか?

原発事故後の対応

こちらの記事で扱うようにします。

記事作成日:2010/04/08 最終更新日: 2017/05/08