米国における診断用X線装置の防護基準の見直し

規制影響分析の実例です。

規制整備に伴う費用見積もり

 米国では、透視装置の放射線防護基準の見直しを進めており、2000年7月14日に、透視装置に重点を置いた診断用X線装置の防護基準改正の社会的影響推計についてのドラフトを公表している。
 これは法令改正による製造費用の増加が価格の増加につながると考え、その程度を定量的に見積もったものである。なお、診断用X線装置のアメリカにおける製造の現状は以下の通りである。
・ 約40の製造会社が診断用X線装置を製造している。それぞれの会社は、約20種類の機種を製造している。
・ 約12,000の新しい装置が全米で毎年販売されている。
・ 約20の製造会社が透視用X線装置を製造している。
・ これらの製造会社はそれぞれ約10種類の異なった機種を販売しており、法令改正の影響を受けると推定される。
・ 毎年、全米では4,200台の新しい透視装置が販売されている。これらの内訳は以下の通りである。一般用透視装置1,100台、泌尿器科領域透視装置250台、血管造影透視装置650台、C-arm透視装置(固定あるいは移動型)2,200台。
 また、製造費用の増加に加えて規制の費用の増加についても検討されている。
 これら検討項目は、(1)新しい規制内容、(2)規制改正の影響、(3)規制改正に伴う費用(製造会社および規制当局、それぞれ初期費用と維持費用が検討されている)、(4)規制改正の利益、(5)他の選択肢である。以下に、検討された規制改正を紹介する。
(1)照射線量から空気カーマへの単位の変更
 単位に馴染む必要があるが、法令書き換えに要するFDAの費用は無視できる(0.05 full-time equivalent, $6,000) 。
(2)新しい検出器システム(FPD等)に対応した規制の改正
 製造会社への新たな費用負担はない。規制当局への費用は$23,000。
(3)使用者への情報提供規定(線量表示機能などのマニュアルによる説明)
 既に製造会社によりある程度の情報は使用者に伝えられているが、それをより充実させることで放射線診療をより改善させ安全を確保できる。製造者の初期費用は$1,000,000(20の会社がそれぞれ10種類の装置について一つのモデルあたり$5,000の費用が必要)、維持費用は$84,000(年間4,200台販売し、各装置で$20の費用増)である。規制当局の費用増加は、各装置の最初のレポートを確認する手間の増加であり$11,700にとどまる。
(4)多くの診断用X 線装置での最低半価層の増加
 製造者の初期費用は$13,000,000(うち$8,000,000は、20の会社がそれぞれ10種類のモデルについて一つのモデルあたり$20,000の費用が必要なためであり、残りの$5,000,000は、適切なろ過とするため高負荷に耐える設計にし直すために必要である)、維持費用は年間650台について各$1,000の費用増が必要で$650,000である。規制当局の費用増加は、$11,700である。
(5)透視装置における照射野の規制
 製造者の初期費用は$7,000,000(20の会社がそれぞれ10種類のモデルについて一つのモデルあたり$20,000、あるいは$50,000の費用がコリメータの調整に必要)、維持費用は年間2,500のシステムについて1システムあたり$2,000の費用が必要で総額$5,000,000となっている。一方、規制当局の費用増加は、$46,800である。
(6)最大空気カーマの制限
費用推計に必要な情報は得られなかったが、装置メーカーの製造過程に大きな影響を与えるものでなく、規制当局に対しても法令コンプライアンステストの項目を変えるものではないので多大な費用ではないと考えられる。
(7)“C-Arm”透視装置の最小焦点—皮膚間距離
 SID(Source image receptor distance)を45 cm以下にしてもよい場合の限定条件を定めるものであり、そのために該当する装置のデザインの変更が必要になる。製造者の初期費用は$150,000(3の装置について、それぞれ$50,000の費用が必要)で、規制当局の費用増加は、$23,400である。一方、現状の規制を改正しない、あるいは現状の規制にそぐわないSIDとなる装置の使用を禁止するとの選択肢も検討されたが、前者は規制にあわない装置の認可をめぐって製造会社と規制当局に不要な費用を発生させ、後者は臨床的に有益で安全に使用できる装置の利用の途を閉ざすという理由で採用されなかった。
(8)透視時間、空気カーマ率、積算空気カーマの表示義務付け規制
 製造会社には透視装置のデザインの変更やシステムの機能追加の費用が発生すると考えられる。しかし、現在でも利用されている一つのアドオンアクセサリーの利用により軽微な変更により、この規制に適合する装置を作ることができる。このため、製造者の初期費用は$10,000,000、維持費用は年間4,200台について各$8,000の費用増が必要で$33,600,000である。規制当局の費用増加は、初期費用が$468,00、維持費用が$234,000である。
 一方、規制を改正しないという選択肢は、使用者が線量を把握するためのツールを必要としているとの認識が周知されるようになったため適切でないとされた。また、国際的な勧告に合わせるという選択肢は、IVRに用いるX線装置の防護基準が2000年7月現在、策定中であり、これらの基準づくりにFDAが積極的に関与していることから適切ではないとされた。さらに、透視装置に、空気カーマではなく面積線量に関連した情報を表示させることは、対象となる放射線障害の種類が放射線皮膚炎であることから適切ではないとされた。
(9)最後の画像保持機能(LIH: last image hold)を全ての透視システムに義務づける規制改正
 11の主要な装置メーカーのWorld Wide Web sitesをレビューし、現行装置のLIH機能付加状況を把握した。その結果、ほとんどのhigh-end機種では、この機能を持っていることが確認された。一方、小型の移動型c-arm装置のようにlow-end機種では、これらの機能を持っていなかった。このため、製造者の初期費用は$1,000,000、維持費用は年間4,200台について各$8,000の費用増が必要なため合計で$33,600,000となる。規制当局の費用増加は、初期費用が$23,400とされた。

規制改正の費用効果分析

 米国では、以上の法令改正に伴う費用推計を基に、透視装置の防護基準見直しにかかる費用効果分析を2001年2月に行っている。
 この報告書では、(1)透視装置における線量表示義務付け、(2)患者被曝線量低減のためのろ過(フィルタ)の規制の強化、(3)X線照射野のより厳格な規制の3つについて、患者被曝低減による確率的影響および確定的影響のリスク低減に伴う便益を算出し、規制改正に伴う装置メーカーおよび規制当局の費用増と比較し、その規制改正の正当性を検証している。
 リスク低減の便益算出にあたって、それぞれの規制改正による被曝低減効果は、(1)透視装置における線量表示義務付け:16%の低下、(2)患者被曝線量低減のためのろ過の規制の強化:6%の低下、(3)X線照射野のよりタイトな規制:1%(UGI)〜3%(cardio)の低下と推計している。
 次に、この各線量低減効果と各検査における平均的な被曝線量(kerma-areaから、実効線量等への換算係数を求めて算出)および検査件数から、各リスクの集団的な低減効果を算出し(現在のデータではリスクの見積もりが過大になる可能性があるとしながらも)、過剰ながん死亡や放射線皮膚炎の規制改正による低減効果を推計している。また、これらの低減効果を、willingness to pay(WTP)法などを用い、過剰発がんの抑制に伴うがん治療および発がんに伴う精神的な負担の低減額や放射線皮膚炎のリスク低下に伴う対策の低減額を算出している。
 以上の分析の結果、規制改正により年間723例の放射線誘発がんによる死亡を低減させ、その金銭的な効果は規制改正後の10年間の平均で年間$5519 M (Million)と、規制改正の費用である平均年間$49 Mを遙に上回るとしている。米国では、この分析に基づき2005年6月10日に、防護基準を改正している。

FDA

Assessment of the Impact of the Proposed Amendments to the Diagnostic X-ray Equipment – Performance Standard addressing Fluoroscopic X-ray Systems

韓国政府の取り組み

 規制整備の例として、X線装置の安全確保に関する韓国政府の取り組みを紹介したい。韓国ではX線装置の第三者機関による不変性試験が義務化されており、X線装置のデータベースを政府機関が管理している。また、診療報酬請求が電子化されており、試験に合格していないX線装置を用いた放射線診療の請求が認められない仕組みが導入されている。現行のルールでは、口内撮影装置のうちリスクが小さい5,669(25.3%)台が第三者機関による不変性試験の適用を除外されている。これらの装置は設置後に検査を受けないので性能低下が憂慮される。このため、韓国保健福祉部(日本の厚生労働省)では性能検査の対象外の歯科装置を検査し、歯科適用排除装置の性能状態を点検した。検査期間は2005年 5月 23日から 9月 30日であり、検査対象は歯科適用排除対象の装置のうち無作為抽出で選ばれた537台である。検査の結果、不適合は364台(68%)であった。このため、「診断用放射線発生装置の安全管理に関する規則」の改正及び制度改善が必要と判断された。これらの検討を踏まえ、全ての放射線発生装置は周期的な定期検査が必要であり、関連法規(適用排除)の内容を改正するよう保健福祉部に建議(立法予告は完了)された。

韓国における医療放射線管理行政の概要

以下の3つの機関が分担している。
− 医療機器としての放射線措置などに関する使用前の許可または使用後の放射線安全管理の法規などは食品医薬品安全庁で行われている。
− 医療機関に対する医療監視は地方自治団体で行われている。
− 医療機関は放射線など医療機器を使用して診療した結果に基づいて診療保健金を健康保険審査評価院(Health insurance review agency)に請求する。

問題点

− 医療機関は無許可または地方の地方自治団体に届け出なしに設置してある放射線装置を使用して診療に対する保健金を健康保険審査評価院に請求しうる(わが国も同様の事例があり、社会問題化した事例もある)。健康保険審査評価院は放射線装置などに対する情報を全く把握していないため、このような請求に応じることになる。
− 食品医薬品安全庁は国内の放射線装置の台数等を正確な把握していない(わが国では医療施設調査が実施されているが、すべての医療機関の情報が把握されているわけではない)。無許可などの防止、放射線従事者の正確な把握が出来ない。
− 放射線装置などには無許可の装置が出回ることがある。しかし、食品医薬品安全庁の許可を得た装置かどうか保健所では簡単にわからない。許可をえた装置でも医療機関は装置届け出なしに使用している例がある。また、許可をえた装置でも、許可をえた性能、効き目、重要な部品などについて保健所では容易に把握できない。このほかに、放射線従事者の正確な把握が出来ない、放射線装置にたいする情報がないなどの問題がある。
− もちろん医療監視や保険金審査の時に許可証、届け出などを求めるが、使用前の許可の場合は医療機関ではなく製造者また輸入者であるから詳しい情報がない。また審査種類によって行政機関が違うから審査の背景などをお互いにわからない。

解決策

 三つの関連機関が放射線安全管理のnetworkを作って情報を共有化して上記の問題を解決し、放射線安全管理管理の行政を効率化し、国民を放射線障害から守る。

記事作成日:2010/07/27 最終更新日: 2013/09/27