検査を繰り返しても大丈夫?

これまでの検査は無駄ではなく意味があったのです 。

やれやれやっと退院できたわ。放射線の治療って、熱いんじゃないかって心配してたけど、まったくわからないものだねえ。
主治医は結構イケメンだから通院が楽しみだわ。
でも、これからも肺のCT検査するですって。また、放射線あびちゃうのかしら。

何、放射線のことが心配なの?

だって、考えてみれば、これまでもたくさん検査を受けたんだもの。
あびちゃった放射線が多いはずだから、これからは、できるだけ少なくしたいわ。
放射線一杯浴びると白血病になっちゃうんでしょ。

そんなことを考えていたんだ。
一回のX線CT検査だと受ける線量は10 mSvだから、平均余命の短縮は多く見積もっても2日間だとして、これまでの検査や治療の線量を考えたらどうなるのかなあ…。

レント博士に聞いてみよう。

おばあちゃん。退院おめでとう。
放射線科が役だってわしもうれしいよ、
何々、これまでたくさん浴びたから放射線ことがちょっと心配になったのじゃな。
放射線で透視しながら、治療する方法のことは知っているかな。
この治療では、同じ場所に繰り返し長い時間、放射線をあてて、放射線皮膚炎になってしまった患者さんもおった。
しかし、今では、どこにどの程度あたったかが簡単に分かるから、このようなことはなくなったんじゃ。

放射線で色が変わるシートは小児科の看護師さんが手放せなくなったんだって。
がんのリスクは、どうなの?

がんのリスクは若いときより、小さくなっていると考えられておる。
細胞の入れ替わりが少なくなっているし、放射線で誘発されるがんは、小児期の特別なものを除ければ、病気になるまで時間がかかるからじゃ。

放射線の影響はすぐには現れないということね。

リスクの考え方だとそうなるということじゃな。
でもわしよりも長生きしそうじゃ。
放射線の検査は、放射線のリスクとそのメリットを比べてから行うものなのじゃ。リスクよりも検査で得られる情報の方が重要ではないと行われないということじゃな。意味なく放射線を照射するのは避けなければならぬのじゃから、これは大切な考え方なのじゃ。
つまり、これまで検査には全て意味があるということじゃ。
それに、医師は、これまでの検査のことも念頭に入れて、検査プランを最適化しておる。

それに、私たちは、患者さん一人一人の、その検査の意味合いを考えて、どこまで見えればよいかなあって考えて検査している。

病院の人って大変なんだねえ。

でも、放射線のリスクと検査のメリットを比べるってどういうことなの?
病院ではお金儲けのために、意味がない検査をさも必要だと嘘付いて行っているじゃないのかなあ。

疑り深いなあ。いい加減な検査プランを作ると恐ろしいカンファレンスで叩かれてしまうし、診療報酬だって請求できない。
そもそも、お金儲けだけのためにこんな大変な医療で働いている人なんていないと思うけど。

まぁまぁ。冷静に考えてみよう。
放射線による発がんリスクは、60歳だと放射線防護上の仮定では1.2E-2/Svじゃ(=リスク係数)。
つまり1Svの線量だと百人に1.2人が、これからの生涯でその1Svの放射線によりがんを発症して、それが原因で死亡することを意味する。

でも、検査で1Svというのはいくら何でも多すぎではないかなあ。

そうじゃな。検査で受ける実効線量が1Svになるものは考えられん。
それと、リスク係数は、正確にリスクを見積もりものではなく、その推計には限界があることを忘れないように。
で、検査の種類や目的で線量は異なるが、次のCTの検査は5 mSvと考えてよいじゃろ。

おばあちゃんがかかっている病院の技師さんに尋ねた方が確実だけど、まぁそんなものね。

5 mSvだとすると、リスクは、100万分の60じゃな。

でた!確率的表現。これじゃ訳が分からない。

可能性が小さくても、それにあたると思うと耐えられなくなるのもわからなくはない。ごくたまにだけど弾が入っている鉄砲を撃つ気分になる人もいるみたい。

検査をしない場合の不利益が大きいことがまず前提じゃ。
確率でリスクを示して考えるというのは、人間の感性にあっていないので、受け入れがたい。
ゼロリスクを目指すと色々と不都合があることを学んだ後で、指標を変えて考えてみるとよいのではないかな。
治療後の平均余命が20年だとすると、100万分の60の確率でその半分になると考えてもよいじゃろ。
これだとだいたい1.1時間の余命短縮じゃ。

数字で示されると小さいね。
でも理屈で示すよりも医師が大丈夫ですよって説明した方が信頼されると思う。

この部分は医師が自信を持って患者さんに説明できるようにするための基礎的なお話しじゃ。
余命の短縮が小さいのは、2年間分の自然放射線の量じゃからな。
それに引き替え、利益は、
再発の可能性:0.1
検査を受けずに再発していた場合の死亡率:0.9
再発していて検査を受けた場合の死亡率:0.4
とすると、
検査を受けない場合の損失余命:1.8年
検査を受ける場合の損失余命0.8:年
だから、
検査で得する損失余命:1年
となるな(とナプキンの裏で計算している)。

じゃあ、利益が1年で不利益が1.1時間になるな。

う〜む。検査は病院の陰謀で、金儲けじゃなかったのか。
おばあちゃん、よかったね。

…。途中からくうくう寝ていたのであった。

細かいことのくよくよしない性格は、本当にうらやましい。
言うまでもないが、このリスク推計は不確かさが大きいのでだいたいの目安に過ぎない。

記事作成日:2010/01/20 最終更新日: 2017/02/27