小児股関節撮影で生殖腺防護は必要ですか?

医療での放射線防護は総合的な観点から考える必要があります。

病院によって患者さんの防護法が異なっている?

今日のセミナーでは、患者さんの放射線防護法を考えてみようと思います。
この大学病院では整形外科とも相談した結果、小児股関節撮影での生殖腺防護のための鉛板の使用を原則中止することにしたそうです。

できるだけ受ける放射線の量が小さくなるように防護するのがよいのじゃないの?
生殖腺防護のために防護をするのは当然だと思うけど。
他の病院ではどうなっているの?

小児股関節撮影での生殖腺防護をやめるのは、県内では、この大学病院が初めてだそうです。

生殖腺防護が不要ってどういうこと?

どうして、防護板の使用をやめることにしたのですか?
面倒だからですか?

小児股関節撮影での生殖腺防護には、メリットとデメリットがありますが、メリットに比べるとデメリットが大きいからです。

メリットは、生殖腺への放射線の量が減らせることでしょ。
この前の勉強会で鉛はX線防護に有効だって習ったわ。
メリットは明らかだから、防護を続ければよいのに。

生殖腺防護のメリットとデメリット

いやいや。鉛板を使った生殖腺防護にはデメリットがあるんだ。
まず、プロテクタを付けた範囲は画像が得られないので、女児だと防護鉛を用いると骨盤全体の観察ができない。
それを外すことで診断域が広がることが期待できる。

骨盤の検査でプロテクタを使わないのはわかるけど、股関節撮影だと、骨盤全体の情報がなくてもよいのじゃないの?

そこはトレードオフじゃな。総合的な観点から考えればよいじゃろ。
この病院では、生殖腺防護をやめることで画像上得られる情報量が増えるので、位置情報がより正しくなるという点も考慮したそうじゃ。
整形外科からの視点としては、股関節疾患では恥骨結合を含め骨盤領域全体の発育など全体像を観察することが重要であることも考慮すべきじゃろ。

男児でも生殖腺防護鉛の設置場所が不適切だと必要な情報が得られないので、再撮影せざるを得ないことがあるそうです。
このため、生殖腺防護用のプロテクタを用いないことで、再撮影のリスクを小さくできるそうです。

放射線の遺伝的な影響

プロテクタを置く場所を間違えなければよい気もするけど、難しいのかしら。
放射線と言うと遺伝的な影響をイメージしてしまうから、慎重に対応したほうがよいような気がしてしまう。

遺伝的な影響が検出された放射線生物学の研究もあるけど、ヒトでは、確認されていない。
もしも、遺伝的な影響が本当にあるとしてもごくわずかだ。

どうしてそう言えるの?

この医療機関の場合は、小児での股関節撮影時の生殖腺の線量は0.03 mGy程度と推計されておられる。
重篤な遺伝的影響の名目確率係数を1.3×10-2[Sv-1]とすると、
股関節撮影による重篤な遺伝的影響のリスクは、
0.03×10-3×1.3×10-2=4×10-7
となる。

10万出生あたり0.04だね。
それが遺伝子の異常による先天性疾患の自然発生と比べて十分小さいということだね。

「生殖腺を防護さえすれば放射線防護はOK」ではない

そのリスクと検査の質を比較している訳ね。
でもプロテクタをすると生殖腺への線量を十分に小さくできるから意義があるのじゃないの。

検査時の生殖腺への線量がプロテクタにより低減できるのは事実であるが、
その効果に限界があるのも、残念ながら、事実じゃ。
この病院では、遺伝的な影響のみに着目するのではなく、発がんリスクの低減を目指したバランスのよい防護を目指されているそうじゃ。

遺伝的な影響だけじゃなくて、生殖腺への放射線曝露による発がんリスクを考えても、もともとリスクが小さくて、プロテクタでさらにそのリスクを減らせるかというと効果に限界があるということだね。

リスク係数には不確かさが大きいというのはわかるし、小さいリスクにあまりこだわっても仕方がないというのは、そのとおりだと思うけど、線量がどの程度変わるかは、きちんと把握した上で説明してもらえるとよいのではないかしら。
股関節撮影で生殖腺防護をしないことへの家族の不安はないのですか?

防護法を変えて、股関節撮影での生殖腺防護を標準としなくなってから5年間たつけど、
これまでのところ患者さんからのクレームは皆無だそうです。

病院への信頼度が効いてきそうね。

一般の方の常識と異なることもありそうだから、
説明を工夫して、理解を得ることは大切ではないかな。

医療機関でしっかり考えてもらえていることがわかれば信頼してもらえるわよ。

どんな場面でも人間関係の基本になりそうだね。
医療機関の放射線防護に不安があるときには、遠慮せずに担当者に尋ねて欲しい。
また、関係者は手技の標準化を進められて欲しい。

図の出典

石井里枝.股関節撮影時の生殖腺防護の不必要性

関連した発表

石井里枝.股関節撮影時の生殖腺防護の不必要性
中山美保(JA北海道厚生連 旭川厚生病院 放射線技術部門)小児股関節撮影における生殖腺防護の必要性について.誌上討論「X線診断領域における患者防護衣は必要か」

妊婦などへの胸部X線検査での防護の検討例

産婦人科の胸部 腹部エックス線撮影について

中央放射線部 技術部門の対応として、次のように統一したいと思います。
みなさんのご意見をお寄せ下さい。

1 胸部撮影のオーダー
・これまで通りに適正に絞って撮影する。
・「依頼時コメント」に「腹部遮蔽」と記載されている場合は、適正に絞り生殖腺防護プロテクターを使用する。
・「依頼時コメント」に「腹部遮蔽」と記載されていない場合は、絞りのみで原則生殖腺防護プロテクターは使用しない。

2 胸部と腹部のオーダー
・「依頼時コメント」に「腹部遮蔽」と記載されている場合は、必ず電話で確認する。
確認の結果、腹部撮影が不要となった場合、胸部撮影は1に準じて実施する。

尚、職員検診、採用時検診などは従来通りの対応とする。

意見を聞いて方針を決めていくのはよいことだと思う

さらに工夫できそうなところはありますか?

妊婦の方が心配しているところにより沿った説明があるとよいと思う。わかりやすい判断材料をマンガで示して欲しいです

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記事作成日:2010/11/15 最終更新日: 2016/03/19

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