線源を埋め込んだ患者さんが仕事に復帰するとき

今日のセミナーでは、線源を埋め込んだ患者さんが仕事に復帰するときの問題を考えてみようと思います。

患者さんが線源に

前立腺にヨウ素125のシードを埋め込んだ患者さんが、仕事に復帰するときに何が問題になりそうだろう?

放射線を扱う作業場での線量計への影響は?

患者さんが線源になっているので、職場の線量計が反応しそう。

身体の遮へい効果を見込んだ場合の距離1 mでの実効線量率は、1 MBqあたり、0.0014µSv/hとされています(患者に永久的に挿入された診療用放射線照射器具(ヨウ素125シード、金198グレイン)の取扱いについて(pdf file:368kB))。

埋め込まれた数量が1.3GBqとすると、距離10 cmで2 mSv/h程度になるので、低エネルギーの光子に感度を持たせた線量計や70 μm線量当量を測る測定器だと容易に測れますね。

このため、職場の放射線管理者は、そのことを考えた管理をする必要があるでしょう。

同僚の影響は?

同僚への線量は大丈夫かしら?退出の基準は、介護者で5 mSv、公衆で1 mSvを担保していると聞いたけど、この場合の同僚は1 mSvを担保されているのかしら?

探したけれどもデータが見つかりませんでした。家族や介護者の場合には、平成25年度の厚生労働科学研究でデータが得られています。この例では、計算では介護者の線量は算術平均が1.5 mSvで0.9-2.3 mSvの範囲にあると考えられましたが、工夫した測定の結果は、算術平均が0.19 mSvで0.01-0.54 mSvの範囲となっていました。

計算結果と測定結果の関係はどうでしたか?

計算結果に対する測定結果の割合は、算術平均は12%で、0.7-40%の範囲となっていました。

距離1 mの地点に滞在した場合に相当する占有係数がコントロールされていれば、リスクは一定程度未満に抑えられそうですね。

本人の線量モニタリングへの影響は?

放射線を扱う作業場だと本人も放射線モニタリングする必要がありますが、それへの影響はどうでしょう?

どのような問題が考えられそうですか?

エネルギーが低い放射線なので影響は小さそうにも思えるけど、職業曝露を多めに見積もってしまいそう。

本人の線量は、平成25年度の厚生労働科学研究でデータが得られています。線量計を胸部に付けて1cm線量当量が評価されています(身体の外側から飛んでくる放射線に対して70 μm線量当量を計測し、それを1cm線量当量に換算(エネルギーの低下は考慮せずに)しています)。患者の線量は、算術平均が7.8 mSvで0.45-20.45 mSvの範囲になっていました(平成25年度.医療放射線防護に関する研究(H24-医療-一般-017).研究代表者:細野 眞(近畿大学 医学部附属病院) )。

体内に埋め込んだ線源だと身体による吸収が効いてくるように思いますが、以外と大きいですね

EGS5によるシミュレーション

人間を円柱と見なした単純なモデルのシミュレーションでは、近くに壁を配置して後方散乱を増やしたり、線量計の位置を下げてみても、1.3GBqに対して10 mSv程度にしかならないので、何か別のファクタがあるのかもしれない…(測定を担当された方から、この測定では、福島で用いられているストラップを用いたため、座ったときに線量素子が線源(前立腺)の前に位置することになり、評価した線量が高くなっている可能性があるとの解説を頂きました。作業による曝露の増加を調べたいときには、前立腺にある線源に対する計数効率の姿勢による依存性を減らすような工夫が求められるかもしれません)

他にある懸念事項とは?

他にはどのような懸念がありそうですか?

放射線管理の立場からすると、その作業者の具合が悪くなったときに、作業による放射線によるものか、治療による放射線によるものか、わからないのではないかという戸惑いがあるかもしれない…。

そもそも作業による放射線曝露で何か症状が起こりえるレベルなのだろうか?

線量限度を超えないようにするだけではなくALARAも考えると、より線量を減らした方がよいのかどうか気になるかもしれない。

治療に伴う線量は、治療効果でオフセットされると考えてよいか?リスクに痛み分けの観点から、どのように作業上の線量を分配するのがよいか?など色々と考えてみてはいかがだろうか?

関係する様々な方の懸念事項を考えていく観点では、I-131を投与された保育士さんの職場復帰問題とも似た構造にあるようにもあるように思う。

関係するそれぞれの方々の権利を損なわないようにデータに基づいて率直な議論によりルールを作っていけるとよいのではないでしょうか。

原発事故後の現存被ばく状況での放射線防護のカテゴリーの記事は、保健福祉職員向け原子力災害後の放射線学習サイトに移行中です。

記事作成日:2014/08/15 最終更新日: 2015/07/22

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