歯科検査での甲状腺の線量とリスク

150回検査を繰り返してもリスクは限定的

Q.小学生から中学生の6年間に歯の矯正治療のためにX線検査を150回程度行いました。検査時には、甲状腺防護用プロテクターは使用していませんでした。

Q1.甲状腺の線量はどの程度でしょうか?
Q2.甲状腺腫瘍のリスクはどの程度でしょうか?

A1.下顎大臼歯のデンタル撮影での甲状腺の平均吸収線量は0.02 mGy程度です。
パノラマでの甲状腺の線量は0.2 mGy程度です。
これらの検査を150回行うと積算線量は、
・下顎大臼歯のデンタル撮影での甲状腺の線量:330 mGy
・パノラマでの甲状腺の線量:30 mGy程度
になります(検査の方法や種類で異なります)。

歯科X線撮影による患者の被曝線量:1枚撮影あたりの線量
表.口内法撮影による甲状腺の吸収線量

岩井1981 Gibbs 1987 Underill 1988
照射条件 60kV,5 mA, FSD 24cm, lower molar
ESD 3.4 mGy
70kV, FSD 20 cm, lower molar
ESD 2 mGy
70-90kV, FSD 40 cm, E speed
全額撮影の平均
甲状腺の吸収線量[mGy] 0.24 0.09 0.03

表.パノラマ撮影による甲状腺の吸収線量

岩井1981 Gibbs 1987 Underill 1988
照射条件 85kV,18 mA, 20s
ESD 3.4 mGy
5台の平均 66kV, 16 mA, 14.1s
全額撮影の平均
甲状腺の吸収線量[mGy] 0.22 0.047 0.05

出典

岡野友宏.歯科診療における放射線防護の現状と課題.医療放射線防護.(52),4-11,2008

佐々木武仁、島野達也編.新版 歯科診療における放射線の管理と防護.医歯薬出版株式会社 にも以下に示すように同様の表があります。

表.デジタルパノラマ撮影による甲状腺の吸収線量[μGy]

装置種類 Cronex
Tome
Cronex
Excel
Veraviewepocs
5D
EC
Proline
Orthoralix
9200DDE
甲状腺の吸収線量 29.4 52.2 25.0 35.9 10.4

小照射野歯科用CT装置での患者被曝線量の検討では、パラノマ撮影での甲状腺の吸収線量が0.12 mGyとされています。

A2.甲状腺に放射線が照射された場合の生涯での甲状腺がんによる死亡リスクは、5×10-4 /Svとされています(1Svの線量を1万人に照射した場合に5人程度が甲状腺がんにより死亡)。
従って、甲状腺の線量が30 mGyの場合のリスクは、1.5×10-5程度になります。
(ICRP Publ.60(1990)では1万人1Sv当り8症例の増加)
ここでの甲状腺の等価線量[Sv]は甲状腺の平均吸収線量[Gy]と同じです。

30 mGyでの線量では寄与リスクは1万人当り0.24人で検出は容易ではありません。
一方、甲状腺がんの自然発生率は1.×10-5

歯科放射線診療で用いる放射線は局所的には強いから心配になる方がおられるようですね?

線量には色々種類があるので目的に応じたものを使うべきだね。
値だけ見せて混乱させてはならん。
よほど局所に集中して照射した場合にはともかく、健康影響という観点からは、歯科放射線の影響はとても限定的だな。

放射線でできた歯牙の安定なラジカル(歯牙は風化しない特徴を持ち放射線により生成された不対電子を安定に保持する)を測って受けた放射線の量を推測する場合には、影響を受けそうですね。

それは特殊な線量評価法の問題だな。

「寄与リスク」って何ですか?

リスク(=放射線によるがん発症による死亡確率)の大きさを差で表したものだよ。どの程度リスクが増えるかは、何倍になるかと比で表すか、ベースラインからどれだけ増えるか差で表すことができる。

歯科放射線診療では甲状腺防護用プロテクターを用いるべきなのですか?

歯科での甲状腺防護用プロテクターの必要性は、 こちらを見てみるといいよ。

歯科の放射線はビームの強度はそこそこあっても実効線量としては少ないと言うイメージがあったけど、検査法が新しくなったり組織加重係数の見直しや繰り返す検査の数が多いことが気になることがありそうですね。

新しい検査法はメリットが十分あれば、少しのリスクの増加は十分にオフセットされることが期待できるのではないだろうか。いずれにしても、繰り返し行うことが想定されるのであれば、ある程度のシリーズで考えて最適化を目指すのがよいのではないかな。

歯科放射線検査での実効線量評価例

ICRP 2007 年勧告による歯科 X 線撮影時の実効線量
口腔および顎顔面エックス線撮影における唾液腺に着目した実効線量評価
F感度フィルム使用時を想定した各歯牙の口内法検査時の各臓器の線量が評価されています。
下顎の大臼歯検査時の甲状腺の等価線量は約0.03 mSvと推計されています。

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FAQ

歯科 X 線撮影における防護 Q&A(pdf file, 205kB)では、下顎大臼歯のデンタル撮影での甲状腺への線量が2420 [μSv/1撮影]とあります。
下顎大臼歯撮影時の甲状腺への影響はかなり大きいのではないですか?

示されている表のデータに誤りがあります。
表2は正しくは、脳:3.1、唾液腺:210、甲状腺:240、肺:0.8です [μSv/1撮影]。

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記事作成日:2010/01/28 最終更新日: 2016/02/11