医療機関で放射線を扱うことのリスクは大きいですか?

診療放射線技師の放射線リスクは線量の低減とともに小さくなっていますが、IVRを行う臨床医が受ける線量は比較的高くなりうるので、放射線防護が重要です。

診療放射線技師や放射線科医は、かつては放射線リスクが高いことが知られていました。
しかし、近年では、そのリスクが確認出来ない程度に小さくなっていると考えられます。
ただし、IVRに従事する臨床医では、線量低減の工夫をしないと、放射線リスクが高くなることが考えられますが、きちんと対応すれば問題はありません。


IVRでの放射線防護のポイント

(1)防護エプロンは2桁線量を低減する(ただし後方散乱が多い場では遮蔽効果が低くなる。また、効果はエプロンの向きにもよる)。
(2)患者が受ける線量(例:PTCR)が多い手技では術者の線量も大きくなる。
(3)防護エプロン外で線量が大きくなりやすいのは左手指で一回の手技で最大8 mSv(線量当量)に達しうる。
(4)手指以外で比較的高線量になりやすいのは頭部である。

出典

田中淳司.IVRにおける被ばく防護のノウハウ:患者と医療従事者の双方について.医療放射線防護.(58),47-53,2010

レビュー研究

Cancer Risks among Radiologists and Radiologic Technologists: Review of Epidemiologic Studies
かつて放射線科医と診療放射線技師は電離放射線の曝露集団として大きな部部分を占めていた。様々な国での合計27万人を対象として8つのコフォート調査をレビューした。もっとも一貫していた結果は、1950年以前に雇用された労働者で曝露線量が高い場合の白血病死亡の増加である。一方、いくつかの固形癌は、複数の研究で乳がんと皮膚がんでのリスクを示したいたが、結果の一貫性は低かった。現在の曝露レベルでは放射線診療従事者でがんのリスクが増えるとの明確な証拠は得られなかった。しかしながら、最近の労働者では観察期間が短いこと、放射線診療の利用が拡大していることから、診療放射線従事者の健康状態を観察することは重要である。

IVRに従事する医師の過剰被曝例


Assessment of a high occupational single exposure – false or true?

1回のERCPで年間の線量限度(50 mSv)を超える70 mSvの被曝があったとされるノルウェーの事例。Norwegian Radiation Protection Authorityが調査した結果を示しています。
放射線部から放射線防護の支援を受けていれば、このような事例は防げます。
The high radiation dose to the surgeon can be explained by the obese patient, associated exposure settings and the working technique, in addition to the over-couch tube geometry. This case shows the necessity to pay special attention to staff doses, during situations like the one described. ERCP is not recommended to be performed with over-couch geometry.
【結論】
外科医の線量が高かったのは、肥満患者であったこと、照射の条件、作業の手技、照射がover-couch(=X線がテーブルの上から照射すること。テーブル下の防護板が効果を発揮できず術者の線量が大きくなる)であったことが考えられる。
このような事例ではスタッフの防護に特別な注意が必要であることをこの症例は示している。
ERCPはover-couchで照射すべきではない。

IVRでの手指の曝露

IVR中に術者がもっとも被ばくするのは手指です。
特に、ビーム内に手指が入るとその被ばくが多くなります。
しかし、それが全てではありません。
診断領域のX線では、透過率が比較的低いために、患者を透過したX線の量は相対的に小さくなります。
その一方、患者で散乱されたX線の量は相対的に大きく、例えば、FSD(エックス線管の焦点からエックス線が入射する前の皮膚の距離): 100 cm、患者を40×40×20 cmの水、ビームサイズを入射面で20×20 cm、線質を管電圧125kV、フィルターをCu0.2 mm+Al2 mmとした場合、入射面の組織吸収線量と比較し、術者の手を照射野外で患者に近づけた場合の組織吸収線量は15%程度になります。
この線量は、患者のビーム出射側でビーム内に手を入れた場合の線量よりも大きいものです。
また、患者への入射側でビーム内に手を入れた場合と比較してもオーダーが一桁しか変わりません。
誤って、ビーム内に手指を入れることを防ぐことは重要ですが、それだけを考えればよいという訳ではありません。
作業の内容を考慮した作業環境管理を実践しましょう。

論文


Cancer mortality among radiological technologists in Japan: updated analysis of follow-up data from 1969 to 1993.


Cancer incidence in the U.S. radiologic technologists health study, 1983-1998

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解説記事

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医療従事者の妊娠と放射線防護について(加治屋より子 先生)日本放射線科専門医会・医会
大野和子.放射線検査による胎児被ばくと女性従事者の被ばく
日本放射線科専門医会・医会 女性医師のためのコミュニケーションスペース

IVRの介助業務に従事する看護師が受ける線量

IVR看護研究会 JSIRN
検査診療部看護師の被曝線量
高橋明美 種田憲一郎.カテーテル室看護師の放射線の意識と安全管理

トレンドが記録できる線量計で線量の推移を看護師の方が計測され、院内の学習会で結果を示された例です。

IVRの術者の放射線防護の総説

千田 浩一.IVR術者被曝の計測評価と防護

独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 木村真三先生(現:獨協医科大学)による講演資料

医療従事者に於ける電離放射線被ばくのリスク評価

不均等曝露時の手指の線量

放射線診療における手指の不均等被ばく線量の推計(第39回日本保健物理学会研究発表会のポスター発表、山口 一郎(国立保健医療科学院)、大西世紀(海洋技術研究所 ) )

わが国の実態

実効線量

個人線量測定協議会のデータによると、実効線量で線量限度を超える50 mSv以上曝露した一般医療での放射線診療従事者は、2006年: 10人, 2007年:12人, 2008年:14人, 2009年:11人, 2010年:29人, 2011年:18人, 2012年:13人, 2013年:9人, 2014年:11人となっています。
また、 20 mSv以上曝露した放射線診療従事者は、2008年:110人, 2009年:203人, 2010年:359人, 2011年:329人, 2012年:304人, 2013年:294人, 2014年:312人です。

個人線量測定協議会によるとこのデータは吟味されたものであり線量計のX線診療室内への置き忘れではないとされています(協議会に加盟している会社による測定値吟味の差があるようです)。
線量限度を超える労働者の曝露は他の分野ではなく、他の国でも最近は見られなくなっています(線量限度を超える事例があると必ず対策が取られているので)。
このため、わが国でも取り組みが求められます。
対策を考える上では実態の正確な把握が求められることから、実効線量限度を超えた事例で線量計のつけ間違えがないかどうかなどを吟味する必要があります。読み取られた線量値が実効線量限度を超えた場合に、線量計の装着部位の誤りが判明した事例はありませんか?

手指への線量

長瀬ランダウア社によると平成21年度、手指への線量が500 mSvを超えた放射線診療従事者は4人とされています。
千代田テクノル社の発表データでは、線量限度を超えた放射線診療従事者の数は把握できない。

平成25年度のデータ

眼の水晶体の線量

放射線診療従事者の白内障のリスク

研究の目的

診療放射線技師の職業上と日常生活での放射線曝露や個人の特性と白内障リスクの関係を明らかにする。

方法

研究デザインは前向きコホート研究。
研究対象者は白内障を罹患していない米国の24-44歳の診療放射線技師35,705人。
追跡期間はほぼ20年間(1983-2004)。
追跡の方法は2回の質問紙調査。

結果

追跡期間中に2,382例の白内障と647の水晶体除去例があった。
5 pack-years以上の喫煙、BMIが25 kg/m2以上、ベースライン時に糖尿病、高血圧、高脂血症、関節炎のいずれかの既往歴有りは白内障のリスクを増加させた( p<0.05)。 多変量解析では、顔面や頚部への3回以上のX線検査の白内障に対するハザード比は1.25 (95% 信頼区間: 1.06, 1.47)であった。 最も多く被ばくした群(平均 60 mGy)に比べて最も少ない被ばく線量であった群 (平均5 mGy)では、調整したハザード比は1.18 (95% 信頼区間: 0.99, 1.40)であった。

考察

NCRPやICRPでは、進行性の白内障を引き起こす最小の集積線量を2Gyとしているが、それとは一致しなかった。
これまで考えられていたよりも白内障を誘発する線量が小さいとする仮説をこの研究結果は支持している。

出典

Chodick G, Bekiroglu N, Hauptmann M, Alexander BH, Freedman DM, Doody MM,Cheung LC, Simon SL, Weinstock RM, Bouville A, Sigurdson AJ. Risk of Cataract after Exposure to Low Doses of Ionizing Radiation: A 20-Year Prospective Cohort Study among US Radiologic Technologists. Am J Epidemiol. 2008 Jul 29.

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放射線安全フォーラム

第 40 回(通算第 165 回)放射線防護研究会「眼の水晶体の放射線防護のあり方を考える」の概要報告
放射線安全フォーラムが水晶体被ばくに関する研究会を開催

防護眼鏡の効果

Interventionalists’ exposure doses to the eye lens measured with small dosimeters worn on both surfaces of radiation protection glasses
2012年10月から2014年3月までの間、透視業務に従事する5人の医師を対象に防護眼鏡内外などの線量を測定し、防護眼鏡(回り込みによる線量を小さくするように配慮されたタイプ)により線量が4割程度に低減することが検証されています。一月間の眼の水晶体の等価線量は、0.03 から 1.39mSvであったとのことです。

CT検査における患者制御時の介助者の線量評価

Author:鈴木 昇一(藤田保健衛生大学 衛生大学診療放射線技術学科), 南 一幸, 浅田 恭生
Source: 医学と生物学 (0019-1604)150巻10号 Page360-365(2006.10)
Abstract:頭部CT検査を想定して、患者抑制時の介助者の線量を個体検出器、電離箱サーベイメータを用いて、体幹部、手指の線量測定を行った。防護エプロン着用の有無で評価も行った。その結果、介助者はガントリ近傍の線束側で30-50%線量が増加した。介助者の胸部、腹部正面での線量は、防護無しで0.22mGy、防護衣着用で0.05mGyとなった。介助者の水晶体の線量は0.15mGy程度、防護眼鏡の使用により0.07mGyとなった。介助者の甲状腺の線量は0.19mGy程度、ネックガードの使用により0.04mGyとなった。介助者の手の表面線量は線束内で37mGy、線束外で1-4mGyとなった。線束内から4-5cm離れると線量が1/10程度になった。動きを伴う患者に対する頭部CT検査において介助者の線量を把握することができた。

Interventional radiology(IVR)における放射線防護眼鏡の比較検討

Author:磯見 正美(鳥取赤十字病院), 西村 昭二, 佐藤 潔
Source: 鳥取赤十字病院医学雑誌 (0917-2556)8巻 Page22-25(1999.08)
Abstract:1)正面からの散乱X線による水晶体被曝は,防護眼鏡を使用しない場合に比べ,遮蔽体が鉛ガラスの「眼鏡タイプ」を使用した場合で15%に,含鉛アクリルの「ゴーグルタイプ」を使用した場合で39%に低減することができる. 2)「ゴーグルタイプ」は,「眼鏡タイプ」に比べて水平方向では顔の向きによる防護能の違いが少ないが,垂直方向では両者共斜め下方における防護効果が低い. 3)「ゴーグルタイプ」に鉛ゴムを付加するなど,防護効果の低い部分に遮蔽体を追加するのは,防護眼鏡の性能を向上させるのに有効であった

医療における放射線防護と関連法令整備に関する研究(課題番号H26-医療-一般-019)

文献番号 201520014A

水晶体線量の評価手法に関する研究(分担研究者:赤羽正章)

また、放射線防護の国際動向に関しては、水晶体の等価線量限度引き下げの動向を受けて、本研究の放射線診断領域における放射線防護に関する課題において、水晶体等価線量を評価する手法を確立することを検討した。IVRにおける術者の水晶体等価線量は手技のありかた、防護メガネの装着のしかたによって、かなりの幅を生じることが明らかになり、その管理の確立にあたって、きめ細かな個別的な評価法が必要になることが示唆された。

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2008 Report
Occupational Radiation Exposure in Diagnostic Radiology2008 dose annual report(pdf file, 741kB)

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整形外科医における誘発皮膚癌の被曝線量の推定

Incidence and mortality risks for circulatory diseases in US radiologic technologists who worked with fluoroscopically guided interventional procedures, 1994–2008
全米での90,957人の診療放射線技師のうち、追跡できた63,482人を解析した結果、脳卒中罹患のリスク増加が見出されたとしています(HR=1.34, 95% CI 1.10 to 1.64)。

海外の取り組み

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ORAMED, Optimization of RAdiation protection for MEDical staff is a collaborative project funded in 2008 within the 7th EU Framework Programme, Euratom Programme for Nuclear Research and training

OECD/NEA

Information System on Occupational Exposure
ISOE network

Guidelines

Miller DL, Vano E, Bartal G, et al, Occupational radiation protection in interventionalradiology: A Joint Guideline of the Cardiovascular and Interventional Radiology Society of Europe and the Society of Interventional Radiology. Cardiovasc Interv Radiol 33:230–239(2010)

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日本看護協会

労働環境の整備の推進

記事作成日:2010/04/19 最終更新日: 2017/02/27

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