乳がんのリスクが高い人は、放射線感受性も高いのですか?

個人の遺伝的な特性が放射線感受性と関係があることが示唆されています。

わが国でも乳がんリスク遺伝子診断が開始されると報道されています(「乳がんリスク遺伝子診断、親族と比較 日本でも開始」2007年08月20日09時51分(朝日新聞社))。
一方、乳がんのリスクの高い方は、放射線感受性も高いという報告があります。
どのように考えればよいでしょうか?


A.
放射線感受性は年齢などによって異なることが知られています。
乳がんを発症しやすいBRCA 1 / 2 Mutation Carrier(二重鎖切断の修復(このうちhomologous recombinationでの損傷により生じた二つの末端をつなぐ修復)に関与)では、放射線誘発乳がんも起こりやすいことを示唆する疫学研究のデータがあります。

遺伝性の乳がん

乳がん症例の5-10%は遺伝性です。
BRCA1,BRCA2は家族性乳がんの癌抑制遺伝子と考えられています。
BRCA1タンパクとRad51タンパクが細胞内で複合体を形成し組み換え時のゲノムの安定性を制御しています。
BRCA1/BRCA2変異(やさらに放射線により変異が加わった場合)では、この機能が低下するために、乳がんのリスクが高いと考えられています。
家族性乳がんは一般の乳がんに比べて、
・発症年齢が低い
・乳がんが両側の乳房に発症する頻度(20 -40%)が高い
・あるいは卵巣がんを発症することがある
などの特徴があります。
BRCA1やBRCA2に変異を持っていても乳がんが発症するのは約70-80%です。


研究論文の解説

Andrieu N, Easton DF, Chang-Claude J, Rookus MA, Brohet R, Cardis E, Antoniou AC, Wagner T, Simard J, Evans G, Peock S, Fricker JP, Nogues C, Van’t Veer L, Van Leeuwen FE, Goldgar DE. Effect of Chest X-Rays on the Risk of Breast Cancer Among BRCA1/2 Mutation Carriers in the International BRCA1/2 Carrier Cohort Study: A Report from the EMBRACE, GENEPSO, GEO-HEBON, and IBCCS Collaborators’ Group .JCO,20,2006: 3361-3366.

目的

・BRCA1/BRCA2変異を持つ女性は、一般の女性よりも放射線の感受性が高いか否かを明らかにする。

方法

・1,601人のBRCA1/BRCA2変異保因者のコホート研究の追跡対象を研究対象とし、質問紙法で胸部X線検査歴と乳がん発症リスクとの関係を重み付けCox比例ハザードモデルで調べた。

結果

・胸部X線の検査歴は乳がん発症と関係が見られた(ハザード比:1.54;P=0.007)。
・リスクは、40歳以下(ハザード比:1.97;P<0.001)や1949年以降の出生(2.56;P<0.001)で増加した。
・とりわけ20歳未満での胸部X線の検査歴はリスクが高かった(ハザード比:4.64;P<0.001)。

結論

・これまでの医療での放射線曝露による放射線影響を調べる研究に比べて、少なくとも一桁少ない線量であるにも関わらず相対的に大きな放射線影響が観測された。
・この効果の一部はリコールバイアスの可能性がある。しかし、曝露時の年齢、曝露後の年数が与えるリスクへの影響のパターンは、これまでの研究と同様であった。
・この結果が事実であるとすると、BRCA1/BRCA2変異を持つものへの放射線検査の適用が慎重であるべきことを示唆する。

用語の解説

生存時間解析

・ ある基準の時刻から目的の反応が起きるまでの時間を対象とする解析手法

カプラン・マイヤ法

・ 生存曲線から半数生存時間(中央値)を求める
・ イベントが起こる可能性のある人口を分母,まだイベントが起こっていない人口を分子
・ 時間と人数の積和が全体の半分になるまでの時間をイベントまでの時間の中央値とする

log-rank検定

・ 対照群よりもよく生存しているかどうかを判定
・生存曲線の差を検定
・期待値との比較でカイ2乗分布を使用
・ 死亡順位の情報だけで検定
・打ち切りデータ(=イベント発生までの時間が得られない)がなければ,検定結果は,ウィルコクソンの順位和検定の結果と一致

ハザードモデル

・時間の概念を用いない場合には多重ロジスティックモデルで交絡因子が調整される。薬が効いたかどうかがどの因子でどの程度説明できるか解析
・時間の概念も利用する場合は、寿命モデルを仮定し各変数の影響を解析
・ただし生存関数をどのように仮定するかが課題。
・生存関数に依存せず、複数の他の変数が生存時間に与える影響を分析するのがCox比例ハザード関数(ある時刻tで生存している集合が、次の微小時間Δtにイベントを経験する率(=ハザード率)を示す関数)が複数の因子の線形結合を指数変換したものに比例すると仮定
・ハザード率の比は時間にかかわらず一定と仮定(できるようにモデル化している)

以前の総説

P E Goss and S Sierra. Current perspectives on radiation-induced breast cancer.

記事作成日:2010/02/28 最終更新日: 2015/12/24